「明日をも知れぬ」鬼が笑う 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)
明日をも知れぬ
タイトルの「鬼が笑う」という言葉は、予測できない将来について真剣に語る人の事をバカにする時に使うことが多い。
主人公・石川一馬は、誰かの為に善かれと思って行動したことが全て裏目に出るという悲しい定めを背負っている。
先ず彼は、十代の時に父の暴力から母と妹を守る為、父を殺してしまったという過去を持ち、この罪が彼の人生を通して「負の十字架」となっていく。
刑期を終え、更生保護施設で暮らしながら社会復帰を目指すが、世間からは「人殺し」と非難され、彼だけでなく母や妹までに、その矛先が向いていたことが物語の展開と共に明らかになる。
だから、父の暴力から救い出した筈の母や妹から、彼は蛇蝎の如く嫌われてしまう。
更に更生保護施設から通う職場のスクラップ工場では、高齢者や外国人実習生を標的にパワハラの嵐が吹き荒れている。
そんな外国人実習生の中で唯一、中国人労働者の劉だけが横行する苛めに歯止めをかけようと行動する。
この劉の行動に感化されて一馬も自分の望む幸せを掴むべく立ち上がろうとする。
「まん延防止」でコロナ禍も一息ついた感じだが、この長期に亘る厄災で、格差や排外主義、不寛容さが社会に拡大したと思う。
一馬は職場で劉と共に、職場改善しようと努力するが、善きことを行えば行うほど、逆に心折れるような悲劇が降り掛かり、物語は恰も坂道を転げ落ちるように暗転していく。
戻るべき家族も失い、パワハラの職場やなおざりな更生施設にも居場所がない一馬は何処に辿り着くのか?
終盤の怒涛の展開はドラマチックで、観る人によって希望か絶望なのか、解釈が分かれるラストがトラウマ級の余韻を残します。
コメントする