「面白くはあったのですが‥」BLUE GIANT komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
面白くはあったのですが‥
(完全ネタバレですので鑑賞後に読んで下さい)
周りの評価が高く見に行ってきました。
そして噂に違わず、ある水準を超えた確かに優れた作品と思われ、個人的にも面白く見ました。
ただ残念ながら、以下の3点の私的なマイナスがあって個人的には傑作とまでは思えませんでした。
その点は逆に申し訳ないと思われました。
1点目のマイナスは、特に主人公の宮本大(声 山田裕貴さん)のジャズの演奏場面で、こちらがこれは優れた演奏だなと【思う前に】、彼の吹くテナーサックスが光り、演奏を聴いている人や観客の方が驚きの表情を浮かべる場面が多かった点です。
私はジャズについて詳しくないので特に、1音や1小節ぐらいでは演奏についての感想はまだそれほど起こっていません。
なのでアニメーション映像でテナーサックスが演奏後すぐに光る表現や、個人的には早い周囲のやや大きな表情は、演奏の素晴らしさを押し付けているように感じて、私には表現が過剰に思われてしまいました。
演奏し始めは普通の映像や周囲の表情でまず音を聴かせ、サビや演奏のクライマックスで今回の光や周囲の表情で良かったのではとは思われました。
2点目のマイナスは、今回のジャズ演奏のアニメーション動きの一部が、おそらく3Dアニメーションで作った映像だと思われたのですが、そこだけが他と違って不自然になめらかで違和感を感じた点です。
私達は映画『犬王』や『すずめの戸締まり』、そして3Dアニメーションとして『THE FIRST SLAM DUNK』の(それぞれ内容としては別の私的感想はあるのですが)アニメーションの動きとしてはそれぞれある水準を超えたアニメーション映画をここ最近でも見ています。
すると映画として傑作に思える為には、それらのアニメーション映画の水準を動きとして同等か超えていなければどうしても傑作に思えない観客としての欲ボケが残念ながらあります。
この映画『BLUE GIANT』は、演奏場面としては残念ながらそれらのアニメーション映画からは落ちると個人的には思われました。
3点目のマイナスは、主人公の宮本大の演奏の素晴らしさは分かったとして、では彼が伝えた音が何だったのかいまいち私には伝わらなかった点です。
主人公の宮本大はたった3年でジャズを良く知る人や演奏者や関係者のプロをうならせるプレーに到達しています。
その間の練習量の凄まじさは確かに想像を絶するものだったろうと思われます。
しかし一観客の私にとっては、演奏は手段であって、彼がまず表現したいものがあり、それを実現表現するための演奏手段なのではと思われています。
主人公の宮本大は(私の記憶が違っていなければ)「ジャズは熱くて激しい」「深くて自由」と言っていたと思われます。
しかし、何に対して「熱くて激しい」「深くて自由」なのかは私には共感をもって描かれていたとは思えませんでした。
仮に人生の困難さに対して「熱くて激しい」「深くて自由」なのであれば、もっと演奏は屈折しその混沌からの脱出を音として表現される必要があったのではと思われました。
宮本大の演奏はあくまで強く真っすぐで「世界一のジャズプレイヤー」という曇りのない直線的な主張で、残念ながら私のような観客には共感をもって刺さる音(表現したい内容)ではなかったと思われました。
逆に、ドラムの玉田俊二(声 岡山天音さん)の表現したい内容は、宮本大のテナーサックスや沢辺雪祈(声 間宮祥太朗さん)のピアノの演奏に素人ながら到達して2人と共に演奏したい思いがあふれていて、私にも共感出来る内容だったと思われました。
しかし玉田俊二は結局はプロのドラマーになれなかったとの描写が最後になされています。
これに関してもなんだかな、とは私には正直思われました。
この映画は、もしかしたら主人公の宮本大のような真っすぐで熱い思いを持っていることが曇りなく大切だと思っている人には、もしくは身近でそういう人がいることを知っている人には、十分刺さる映画なのではとは思われました。
しかし私のような観客からは、映画の中で挫折のない宮本大の描写では、彼の主張に小さくない疑問が湧き上がるのもまた事実だったとは思われました。
そういう意味では、私はこの作品には向いていない観客だったなと申し訳なくは思っています。
しかしそれを差し引いても、音楽を担当した上原ひろみさんの音や演奏はやはり素晴らしく、ストーリー展開としても骨太な映画であったのも一方で事実だったと思われました。
私のように突っ込んで見ることがなければ、普通に面白い作品だったと一般的には思われる作品になっているとも思われました。