「足りないからこそ良い。でもそれに甘んじない。」BLUE GIANT DEPO LABOさんの映画レビュー(感想・評価)
足りないからこそ良い。でもそれに甘んじない。
世界を目指すサックスプレイヤーと、大学デビューに失敗した超初心者ドラムと、天才肌だけど劣等感を抱えるピアニストの3人が、それぞれがばらばらになっていくにつれて、演奏が熱くなっていくお話。
▼参加ミュージシャンの「音の演技」が凄い。
・キャラクターの性格や、熟練度、成長度合いをしっかり落とし込んだ上での演奏をしてる
・特にドラムの石若駿さんの演技力がハンパない。助音男優賞確定。
▽ザ・初心者な叩き方、
▽初心者がそれなりに成長したけど、ついてくのは必死な叩き方
▽どこ弾いてるのか分かんなくなって適当に叩く感じ
▽不完全だけどライドシンバルの叩き方を省略してバンドに調和させている叩き方
これらをすべて叩き分けている凄さ。
以下ネタバレ気味
・ラストのドラムソロで、自分ができる数少ない技で、分厚い壁に一点集中で力を込めて穴を開けにいこうとする感じのリフが最高でブチ上がりました。
・上原ひろみのピアノは、キャラクターが弾いていようがとにかく上原ひろみの音だった。(これはこれでスゴい)
▼アニメ作画も凄い。
・手描き2Dはもちろん、ロトスコープに3Dモーションキャプチャに、スケッチに、マーブリングにと出来ること全部をブチ混んでる意気込みが凄い。
・ブルーノート的な会場責任者が言っていた裏方が「やれることは全部やろう」というセリフが、ジャズを盛り上げる視覚演出クリエイターの意気込みとダブって、凄まじい。
▼ピアニストのキャラ展開が独特。
・バンドがどういうふうに変化していくのか、観客の関心を引っ張っていくなかで、未熟なキャラクターが成長していくというキャラ変化も見せることで感動を呼び起こす構成になっている
・そこまでは珍しいことではないがピアニストキャラの変化が独特
・ピアニストだけは物語が進むにつれて、どんどん窮地に追い詰められて、最終的には身体の自由さえも奪われてしまう。
・この大逆行する流れが、シンデレラストーリーのアゲアゲ展開に水を差すどころか、より強烈な上昇気流を生む起爆剤になっている。だから泣けるんだなぁ。
▼数々の名作音楽映画に匹敵する存在感。
・「セッション」「ボヘミアンラプソディー」「音楽」「パティケイクス」「コーダ あいのうた」とかとも十分に肩を並べることができる名作!!
・ジャズがもともと好きな人を喜ばせるだけの方向だったらこうはなってなかったはず。
・オリジナル曲を軸にして、「ジャズ=熱い」というシンプルで明快な旗を掲げているのと、ジャズに馴染みがないキャラクターの存在をしっかり立たせているのも相まって、ジャズを知らない人でもちゃんと楽しめる内容になってる。
・ジャズという閉鎖的なイメージを、むしろ強みに変えて、誰もが楽しめる普遍的なエンタメ作品にした力量は素晴らしい。
・足りなかったり、未熟だからこその良さがある。でもそれだけに甘んじるわけじゃなく、ちゃんと観客をかっさらっていくtsめの責任感もちゃんとあるっていう感じが、キャラクター劇にも、映画制作の姿勢にも感じられて、最高です。