「今話題の80年代を描いたのに不発だった作品」雨に叫べば ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)
今話題の80年代を描いたのに不発だった作品
舞台設定は1980年代。
抜擢された女性新人映画監督が、男社会の中で、苦悩や葛藤と戦いながら、自分の追い求める「美」を撮影する物語。
男尊女卑、パワハラ、映画倫理表現、イジメなど、
現代でも社会問題として、たびたび話題に上がる問題点を描写しながら、
その奮闘劇を観ていく流れの作品だったが、
主人公の置かれている環境や設定がおぼろげで、冒頭から感情移入できず、
違和感が最後まで続く印象だった。
違和感は主に2つ。
1つは、冒頭の、主人公が車の中に立て籠もり、撮影が中断され、上司や先輩たちからプレッシャーをかけられている描写。
撮影続行を成立させる要素が無く、いきなり主人公が「問題児」として描かれている。
現場にフィットしようとした挙げ句、振り回され、絶望して立て籠もりに至るのではなく、
主人公が、最初から周囲を振り回す側から始まるのだ。
撮影現場に「味方」がいないという演出の強調なのだろうが、
映画の観客さえ味方につける事もしないまま、
いきなり孤立させてしまう演出への違和感が、その後も続くのである。
立て籠もらせることで、映画監督に抜擢した根拠もおかしくなり、
その後、物語は敵対していたはずの周囲の人々を、
映画会社上層部との対立へと急展開させて、味方に転じさせるくだりが強引に見えてしまった。
もう1つは、主人公の「美意識」の部分。
子供の時に母親が男を連れ込み、その2人の卑猥な行為を覗き見している主人公が、
その母親の妖艶さに惹かれ、そこに美意識を感じ、
映画監督になり、その艶めかしさを撮りたい、
という動機への構築部分がひどく雑だった点である。
子供が「嫌悪感」ではなく、なぜ「妖艶さやエロスに惹かれ」たのかを、
もう少し丁寧に描かないと、違和感だけを残してしまうだろうと思った。
他でいうと、落ち目の女優が濡れ場に賭ける想いのシーンであったり、
プロデューサーのいかにも昭和な雰囲気の立ち回りであったりと、
脇役のキャラクター設定は面白かったし、見どころもいくつかはあった。
特に、この作品を私自身が観た2024年という年は、
この80年代後半から90年代初頭の時代設定だった、
『不適切にもほどがある!』や『極悪女王』などが大当たりした年でもある。
だからこそ私も鑑賞作品に選んだのだけれども、
この作品がそれらと比して話題にならなかったのは、
その懐かしさや陶酔にまで至らぬ原因=「違和感」があった故ではないかと思うのである。
良かった演者
○高橋和也