「奪い、奪われるもの」LAMB ラム きさらぎさんの映画レビュー(感想・評価)
奪い、奪われるもの
クリックして本文を読む
台詞が少なく、厳しくも美しい景色の中で物語が淡々と進んでいく。羊の出産シーズンを迎え、順調に生まれる子羊たち。その中にアダも居た。絶妙なカメラワークがアダの全体像を隠しているけれど、彼女が生まれた瞬間、それは羊ではない何かであること、そして抱きしめずにはいられないほどに愛くるしい存在なのだとわかる。はじめは確かに戸惑うが、観ている側も徐々にアダちゃんの魅力にハマってしまい、この家族の幸せがずっと続けばいいのにと思う。だがそれは、きっとかなわない……
オープニングでかすかに示される不穏な雰囲気が、かわいいアダちゃんの成長や親子の微笑ましい日常のシーンにもずっとつきまとう。アダちゃんの実母にあたる羊が執拗について回ったり、それを追い払い、ついには殺してしまうマリアのふるまいは、果たして愛と呼べるものなのか、それとも単なる業や欲の類なのか……母が母を殺し、父が父を殺すという結末は、因果応報という言葉に尽きると思う。神話的なお話にも見えるけれど、本質はもっと人間的なもののように思えました。
コメントする