「羊たちは沈黙しない、復讐する」LAMB ラム トマトマ子さんの映画レビュー(感想・評価)
羊たちは沈黙しない、復讐する
第一章
羊から生まれた半分羊・半分人間の生命体。観客は見た目の異様さに引きまくるところだが、主人公の夫婦は感動して泣き出すほどにこの新しい生命の誕生を奇跡だと喜び、喪くした娘アダと同じ名を付けて育てることを決意する。しかしアダは無意識のうちに羊たちや自然の中に還ろうとしてしまう。
第二章
夫の弟という第三者の登場により、やっと観客と同じ感覚の持ち主が現れる。邪魔者の母羊を殺すほどの妻の入れ込みっぷりを目撃し、夫にはほっといてくれと言われ、二人を正常な状態に戻すためにアダを殺そうとするが、アダの目が羊のもの(瞳が横長)ではなく人間のものであることに気付き、受け入れる
第三章
本物の父親が現れ、羊たちが代々受けてきた仕打ち(描かれてないが屠殺だろう)の報復として夫と犬を抹殺。アダを連れ去る、というか連れ帰る。最後はこの父親がおそらく妻を犯し(妻の表情と息づかいが夫とセックスしているときと全く同じ)、新たな生命の誕生が予感されるところで終わる。
めちゃくちゃ面白かった。弟が現れるまで台詞はほとんど無いし、白夜の中の大自然なので場面もほとんど同じ。それなのに画面がずっと緊張している。
何か不穏なことが起こりそうな気配満々の前半、からの和やかな家族団欒の中盤、そして一気にネタバラシというかこの生命体の正体が明かされるクライマックス。アダの誕生は奇跡なんかではなく、代々この土地で殺されてきたであろう羊たちが人間に復讐する機会を得るために自然が遣わしたきっかけだったんじゃないかな…
ちなみに夫婦は牧羊犬としての犬とペットとしての猫を飼っているが、本物の父親に殺されたのは牧羊犬だけで猫は無事だった。この辺りにも、代々虐げられてきたであろう羊たちの恨みつらみを感じて、背筋が凍った(そして猫ちゃんが無事で安心した)