劇場公開日 2023年8月25日

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「「表現の不自由」は致し方ないが、それでも、奥歯に物が挟まったような「もどかしさ」が残る」君は行く先を知らない tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「表現の不自由」は致し方ないが、それでも、奥歯に物が挟まったような「もどかしさ」が残る

2023年8月25日
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父親の足のギプスに落書きされた鍵盤で次男がピアノを演奏する冒頭のシーンから映画に引き込まれる。
地面に寝転ぶ父親と次男の周りに音楽に合わせて星が灯っていき、やがては2人が銀河の彼方に吸い込まれるという、目を奪われるような素敵なシーンもある。
イランの歌謡曲の使い方も印象的だし、狭い車内での長回しがあるかと思えば、人が豆粒ほどにしか映っていない遠景でのワンカットもあり、監督のセンスの良さを随所に感じることができる。
これがイラン映画でなかったなら、ラストで旅の目的や、その理由が明らかになり、長男と家族の別れの感動が盛り上がるのだろうが、あからさまな体制批判が許されないせいで、何もかもがうやむやなままで終わってしまうのは、如何ともし難いところか・・・
観客としては、登場人物のちょっとした台詞や表情から「事情」を察するしかなく、それが、「表現の不自由さ」を逆手に取った余白とか余韻にもなっているのだが、その一方で、説明不足に起因する消化不良や不完全燃焼といったものを感じてしまうのも事実であり、そこのところは、やはり、残念としか言いようがない。
監督は、決して体制の批判をしたかった訳ではなく、「家族の絆」を描きたかったのだろう。
それでも、その家族の関係が、どこかフワフワと浮世離れしたものに感じられるのは、旅の目的や理由が不明確であることと決して無関係ではないと思えるのである。

tomato