劇場公開日 2022年5月6日

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「ドキュメンタリーではないことを強く意識して観るべき」マイスモールランド kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ドキュメンタリーではないことを強く意識して観るべき

2022年5月17日
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鑑賞方法:映画館

日本に在留する外国籍の人はたくさんいるが、クルド人と接したことのある人は少ないはず。少なくとも私は話したことがない。そもそもクルドって国ではなく民族だから、その点でも実態がわかりづらいと言える。そして、日本での難民申請はものすごく通りづらいってこともとても重要なポイント。
そんなことを知っていたとしても、この映画で描かれる現実には驚かされる。いや、フィクションなんだけど、これが現実なんだろう。子どもが日本での大学進学まで考え、下の子は日本語しか理解できないという状況。それだけ日本で生活の基盤が築かれていることの描写がうまい。そんな状況で、親の難民申請が通らず、一家の在留資格が一気に危うくなるという展開。日本における外国籍の人間にとって在留資格ってものがどれだけ重要なのか改めて思い知られる。
それでもこれはドキュメンタリーではないので、ぼかすところはぼかした上で物語は進む。そういう意味であの家族が直面している問題が、わかりづらくなっている印象も受けた。裁判って何を争うの?とか、ビザがおりたとしてもその後は?とか。でもそれも仕方ない。難民問題や在日クルド人の問題をアピールする映画ではないから。そういう側面もあると思うが、描かれていたのはサーリャの青春だと感じた。恋もするし、バイトもするし、進学のことで悩んだりもする。そして、クルド人としてのアイデンティティに苦しむ姿も描かれる。
なんて過酷なんだ。心が折れるよ。他人に簡単に頑張れなんて言われたら、頑張ってます!って言い返したくなる気持ちもわかる。正直、あの子達に明るい未来が待ち受けているのかはわからない終わり方だったが、サーリャ役の嵐莉菜の表情を見ると希望は残っている気がした。そう信じたい(フィクションだってのに!)。
彼女の演技だけでも観る価値はあるかもしれない。キレイって表現を超える絶対的な魅力があった。今後が楽しみだ女優だ。というか女優を続けてほしい。

kenshuchu