「未来に光がありますように」マイスモールランド 大吉さんの映画レビュー(感想・評価)
未来に光がありますように
在日クルド人の高校生サーリャが主人公。たまたま前夜に観た韓国映画「はちどり」と同じように少女の日常が淡々と描かれる。
淡々としてはいるが、演者が魅力的で演出も優れているのでずっと画面に惹きつけられる。
現実に今も起こっていることなので、物語も問題が解決せずに終わるが、終盤に父親の取る行動とその思いに胸を打たれる。
今日だけトッピングをつけていいと言われたラーメンを家族と一緒に食べるしあわせ。コンビニの新商品スウィーツを彼氏と一緒に食べるしあわせ。なんの贅沢もないこういったしあわせを取り上げる社会ってなんだろう。
この映画がきっかけとなって少しでも弱者に寄り添える人が増えればな、と思う。
現在、ウクライナから逃れてきている難民にはみんなが注目し、同情を寄せている。しかし、そういった方ばかりではない。私の住んでいる校区内に某国からの難民数家族が住んでいるが、彼ら彼女らは現政権から逃れて亡命してきた人たちだ。残してきた家族親族に災禍が及ばないようにひっそりと暮らしている。支援して仕事を提供している農家も美談ながらマスコミの取材など一切受けることはない。何かがあったとしても声を上げられない、そういった人たちだ。
今作も最後に、顔や名前を出せないけども協力してくれた方々へ感謝云々、とクレジットが出るがそういった方がたくさんいるということだ。
こうした現実の中で、伝えたいこと、伝えるべきことを劇映画の形で発信することはとても大切なことだと思います。
主人公が、ワールドカップで日本を応援したくてもできなかった、クルド人ということを説明するのがいちいち面倒なのでドイツ人と言っている、思われたままにしている等、当事者でなければわからないことにも気づかせてくれる。
「お人形さんみたいね、日本語お上手ね、頑張ってね外人さん」悪気はなくとも傷つけてしまうことを言っているのも無知であるからだ。
映画は現代社会を学ぶ最良の教科書だ。ひとりでも多くの人に観てほしい作品です。なんなら全国の中学校・高校で見せるくらいしてもいいんじゃないかと思う。
いい意味で是枝ブランドを使って少しでも上映館が増えることを願っています。
(残念ながら観客ひとりでした)
エンディングに流れるROTH BART BARTONの「New Morning」も良かったです。
主人公の少女が接見室で父親と面会するシーン。
ガラス板アクリル板越しの対面は、古くは「天国と地獄」の三船敏郎を前にした犯人・山崎努の独白が鮮明に記憶に残っている。つい最近では「死刑にいたる病」で阿部サダヲが岡田健史に重なり離れていく演出が突出していた。
今作ではサーリャの涙を湛えた大きな瞳に、父親の未来に光がありますようにと祈る手が重なって映るのがとても印象的だった。
>なんの贅沢もないこういったしあわせを取り上げる社会ってなんだろう
日本がそういう国であって欲しくないのですが、どうしてそうなってしまっているのでしょう。
ROTH BART BARON、自分はアルバム1枚しか持ってないのですが、クレジットを見て、おっ!と思いました。映画にあったいい曲でしたね。