劇場公開日 2022年5月6日

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「ボーダーライン」マイスモールランド 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ボーダーライン

2022年5月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の若手監督・川和田恵真さんが商業映画デビューを果たし、自ら書き上げた脚本を基に映画化した本作には幾つもの「ボーダーライン」が登場し、ヒロインで17歳のサーリャをはじめとした家族の行く手を阻んでいく。
先ず一番大きなものとして日本人とクルド人という「境界」があり、そこには言語や文化、宗教の違いが顕著としてある。
更にサーリャの一家は、父が抗議運動で国から追われる立場で日本に逃げてきたので、難民として受け入れてもらえないと「居場所」を失う。
ところが「難民鎖国」の日本は、そう簡単には難民認定はしない。
幼い頃から日本で育ち、現在は埼玉県の高校に通い、同世代の日本人と変わらない生活を送っているサーリャは、難民申請が不認定になり、一家が在留資格を失ったことで、恰も梯子を外されたかのように寄る辺ない状況になっていく。
そんな彼女を精神的に支えるのが、大学進学資金を貯める為のアルバイト先であるコンビニの同僚で同い年の聡太。
本作は、難民申請が不認定となり在留資格を失ったクルド人家族が直面する困難を描く社会派的な作品であると同時に、この聡太とサーリャが少しずつ気持ちを寄せ合っていく中で葛藤したり、自身のアイデンティティに悩む姿を描くことで青春物としての側面も持つ。
更には、サーリャと父、サーリャと妹弟との関係性も丁寧に描かれ家族ドラマとしての要素も内包している。
この多彩な作品は、社会でダイバーシティが叫ばれながらも、如何に実態が乖離しているかをまざまざと我々に提示していると思う。

玉川上水の亀