劇場公開日 2022年5月6日

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「この問題を多くの人で共有したい」マイスモールランド おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この問題を多くの人で共有したい

2022年5月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

今週公開作でちょっと気になっていて、レビュー評価も高かったので、鑑賞してきました。そもそもクルド人について何も知らなかったので、とても勉強になりました。というより、日本人として日本で生まれ育ちながら、この国のことさえよくわかっていなかったことに気づかされました。

ストーリーは、幼い頃に難民として来日したクルド人家族が、難民申請が認められなかったために家族全員がビザを失い、就労も認められず、行動も制限される中で、父が入管に拘束され、進学や生活に行き詰まる女子高生サーリャの姿を通して、自身の居場所やアイデンティティの模索、日本の難民問題を浮き彫りにしていくというもの。

政治への問題提起ともとれますが、あくまで市井に暮らす人々の目線から、日常生活を描きます。それこそサーリャの周囲にいる日本人は、どこにでもいるありふれた人ばかりです。しかし、そんな人たちのなにげない会話でさえ、サーリャの心を波立たせます。例えば、サーリャがバイトするコンビニに来た客の老婦人は、「言葉が上手ね。外人さんとは思えない。」と優しく声をかけますが、サーリャの表情は複雑です。どんなに日本語が上手で、日本人と同じように生活していても、どこかで線引きされる悲しさや悔しさが滲んでいるようでした。私たち日本人が外国人を無意識に区別していることは、無自覚に差別していることなのだと改めて気づかされます。

また、在留資格を失ったことで、コンビニで働けなくなり、決まりかけていた大学推薦の話もなくなってしまいます。それまで歯を食いしばってがんばってきたサーリャにとって、これがどれほど理不尽で、納得のいかない対応だったことか。サーリャの心中を察するといたたまれない気持ちになります。

そんな生活に行き詰まったサーリャが、パパ活に手を出してまでクルド人仲間に頼ろうとしなかったのは、クルドのしきたりに従った結婚をしたくなかったからでしょう。密かに想いを寄せる、バイト仲間の聡太の存在もあったかもしれません。そんなサーリャの姿から、クルドだ日本だとひとくくりに考えようとすること自体が、そもそもおかしいのではないかとも思えてきました。サーリャはサーリャで、他の何者でもないのです。

本作はほぼ全編にわたってサーリャを中心とした日常生活が描かれるため、多くの人の共感を呼びます。自分も、憤りを感じたり、涙腺が緩んだりと、何度も感情を揺さぶられました。しかし、行政サイドからの視点が欠けていることを忘れてはいけません。国として難民申請をなかなか認められない理由もきっとあるはずです。ともすると一方的な見方に陥る危険性を伴うので、この辺りのバランスがもう少し取れているとさらによかったかもしれません。

主演は嵐莉菜さんで、自分の在り方に戸惑うクルド人少女を自然体で演じています。劇中の父、妹、弟は、すべて実の家族であり、自身も5か国にルーツを持っているため、これまでの経験がそのまま演技に生かされていたのではないかと思います。ほぼ出ずっぱりで、社会の仕組みや周囲の人々に翻弄されながらも、自分を見失わないように必死で生きる姿が感動を誘います。彼女のバイト仲間・聡太役は奥平大兼くんで、こちらもまた自然体の演技が秀逸です。

物語はまだまだこの先の不安要素が払拭しきれないまま終わり、サーリャの未来に光が差すことを祈るばかりです。そのためには、本作を鑑賞した人たちが少しでも意識を変えることが大切です。そういう意味でも、日本人も知らない日本の難民対応について問題提起した、本作の意義は大きいと思います。

おじゃる