劇場公開日 2022年5月6日

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「【5/8追記】主人公目線にしたために、本質の筋がわかりにくい…」マイスモールランド yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【5/8追記】主人公目線にしたために、本質の筋がわかりにくい…

2022年5月6日
PCから投稿

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(5/8追記) 他の方のレビューでわかりにくいという部分について、私の知識水準でわかる範囲で補足を入れました。
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今年130本目(合計404本目/今月(2022年5月度)7本目)。

さて、こちらの作品。私自身は行政書士試験合格者レベル(難民申請は(難民問題を専門にする)行政書士と弁護士の共管業務です)という知識です。

この映画「それ自体」は架空のお話ですが、クルド人難民の話は、特に「埼玉県で」は多いお話です。外国人問題といっても大きく分けて2つあり、一つは「適法に在留している外国人の問題」、もう一つは「適法には在留しているが(途中で難民認定が不認定になることもあるが)、いわゆる難民問題」の2つで、この2つをまず分けないとアウトです。この映画は後者であり、前者の話(いわゆる、在日韓国人等や、さらに言えば、今日、日が当たっている実習技能生などの話)ではない、ということをまず理解しないと正直ハマリが生じます。

 ※ このことは、「日本に暮らす在日外国人の割合」と「日本での難民申請の割合」がそもそも根本的に違う、という点がポイントになります。後者、つまり「難民申請の割合」は、2020年(令和2年度)では「トルコ」(21.2%)、ついで「ミャンマー」(15.3%)、「ネパール」(11.8%)と、トルコが妙に多いことに気が付きます(「韓国・北朝鮮」は円グラフの中にすら存在しない)。これには事情があります(後述)。

映画自体は他の方も書かれている通り、主人公のサーリャ目線です(高校1~3年)。主人公が彼女でありそこに寄せた部分があるため、クルド人難民問題の根本が何であるのか等の話がほとんどなく、正確な知識がないと「在日韓国・ブラジル人」や「実習技能生」の話と混乱したり、とにかく理解難易度は高い上に、ハードルを低くしたために固有名詞や法律的な話をぼかしたために、前提知識がないと何の話をしているのか全く不明であり、最悪ハマリ現象が発生します。

もっとも、クルド人難民問題を真向面にテーマにした映画としては「東京クルド」という映画もあり(大阪市では放映なし?)、それと分ける意味で、主人公のサーリャを目線にしたかったのだと思うのですが、日本で「クルド人難民問題」というのが何なのか、というのが大半の方では???という状況が現在(2021~2022)では、最低限の説明もないと本当にわからず混乱するのはもう仕方がないし、一方でそれらを全部説明すると180分(3時間)コースで、もうこうするしかなかったのかな…というのは否めません。

とかく前提知識がないと本当にわかりにくいので、さっそく採点にいきましょう。

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(減点1.2/説明不足等)

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 ・ なぜ、(難民)クルド人が埼玉県に多く在住するようになったのか?
   → 日本では、例えば大阪の鶴橋がコリアタウンと呼ばれるように、在日外国人(難民も含む)は一か所に集まる傾向があります。そのほうが相互の協力を得やすいからです。まだ難民問題や、「外国人の移住」ということが余り意識されていなかった1990年ごろ、ある方が埼玉県南部(=東京都北部)に移住したことがきっかけで、埼玉県南部(川口市など)に多く集まるようになりました(日本には2000~3000人ほどいるとされる難民クルド人のうち、7割近くが埼玉県在住という特異な状況)。

 ※ そして、当時(1990年時代も現在も)、埼玉県南部では工場・解体作業などの単純作業で、特に中小企業が外国人を受け入れることに需要があったことも影響しています(映画内で、クルド人が工事現場?などで多く働いている描写があるのも、これによります)。

 ・ なぜ、日本は難民申請に対して許可しないのか?
   → 映画中でもヒントはありますが、「クルド」という国は「存在せず」、トルコやイラン、イラク等、このあたりの国で発生した紛争による難民です。
一方、「国籍」は必ず存在しますが、「難民クルド人」の国籍は大半は「トルコ」です。そしてトルコは一般に「親日国」として知られます。したがって、日本政府がトルコを親日国として考慮している前提で「難民申請」を認めると、当該国(ここでは、トルコ)に「戦争など、何らかの問題がある」ということを認めてしまうことになります。それは日本の政府の今の立場ではないので(繰り返すように、トルコは数少ない親日国)、これらが認められないのです。

 ※ このこと(クルド人難民の難民申請が通りにくい事情が、トルコに配慮している、ということ)は、行政書士・弁護士の方で難民申請を扱う方では、どちらのサイド(行政書士・弁護士)でも常識扱いです。

 ※ 「難民申請」が全て通らないのではなく、出身国によっては通る場合もあり、実際に例もあります。ただ、クルド人に限っていえば現在(2022年)まで認められたケースは「ありません」。
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 (映画内での説明不足・配慮不足)

  ▼ 映画内では弁護士と思われる方が出ます(「裁判で司法に認めてもらいましょう!」という発言が出るが、行政書士には裁判まで来ると関われないため)。

 ただ、難民の不認定処分に対しては審査請求が可能です(行政不服審査法、入管法)。ただ、入管法のほうが特別法なのでそちらが適用されますが、「不認定通知を受けてから7日以内」と短いのが特徴です。

 行政不服審査法で救済されるケースは少ないものの、難民申請に対する審査請求は7日以内と短い一方、「難民申請が不許可になっても、それらの権利行使を妨げるものではない」ので(事実、法務省でさえこの手続きは説明をしている)、この間に、裁判で争う場合の証拠集めなどをする「時間稼ぎ」には使えます。ただ、映画内ではこの話は一切出てこず。これを「時間稼ぎ」として問題視する立場も理解はしますが、裁判で争うには当然、証拠集め(ここでは、難民認定されるべき客観的な証拠集め)に時間がかかることは事実なので、権利の濫用にあたらない限り問題視はされません(そもそも、法務省でさえ審査請求の説明がある)。

 ※ 仮に難民申請をしていたり、仮放免されていても、裁判を受ける権利等、基本的人権は(日本国民を対象としていることが明確でない限り)その保障は等しく及ぶ、というのが判例のとる立場です(→マクリーン事件)。

 さらに、入管施設に収容されると面会が許可されますが、「裁判で戦いましょう!」という割に、一体「何の裁判で何を戦うのか」がまったく説明がなく。まるで不明になってしまいます。ここは、行政事件訴訟法の中の「取消訴訟」です(要は、難民申請の不許可を取り消せ、という趣旨で争う類型の裁判)。この話が一切ないため、国賠(国家賠償法)ではないかと考えたりしても、それもそれで一理ありうる(ただし、知識を持っていれば、それではないことは一瞬でわかる)ため、ここがかなり難しい状況です。

 (ほか、その他)

 ・ 家賃の滞納については、1~2か月の家賃の滞納では賃貸人から一方的に解約することはできない、というのが判例の立場です(特に家の賃貸借については、「居住という特異な性質」から借主の保護という観点と、「家主と借主の信頼関係が完全に破壊された」といえるほどでないと認められない)。
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 ★以下、5/8追記★

 Q. 外国人、特に難民にも基本的人権は及ばないの?

 A. 上記に書いた通り、(参政権のように)日本国民を前提とした権利であることが明確でない限り、その保障は等しく及ぶ、というのが判例の立場です(マクリーン事件)。

 一方で、合理的な制約をかけることも許されます。「県外から出てはいけない」(憲法22条の1、国内移動の自由)というのも、本質は「逃亡の恐れがあるから」であり、それは外国人・難民に「のみ」及ぶような規制ではなく、日本人でも科せられることがあります。破産が絡んでくるようなケースです(これも債権者保護の観点)。

 問題なのは、映画内でも「許可があれば県外にも行ける」とは描かれているものの、その申請が「異様に細かい」点であることです(実際に、中学生の子が修学旅行に行こうとしたら、どこのホテルに泊まるのか、どこの観光名所に行くのか地図まで出して全部書け、といった、つり合いが取れない(中学生が修学旅行中に逃亡する、という行政の発想が不自然)という部分です)。

 Q. クルド人と日本人とのかかわりは?

 A. 上記に触れた通り、大半が埼玉県南部に在住されています。日本では立場が非常に狭いということ、また、「可能性は限りなく低くても難民申請が認められる可能性」を考えて、日本語の学習も(この地域の日本人ボランティアの方の協力もあって)驚くほど速いのです(映画内でも、父親の日本語はそん色ないレベルですね)。

 ※ 日本語学習では、漢字圏か非漢字圏かで学習のスピードが大きく異なること、また、トルコなどは「当然に非漢字圏」という点に注意。

また、川口市をはじめとした埼玉県南部の鉄道駅などの掃除のボランティアに従事されていることでも知られますし、「文化を知って欲しい」ということで、ケバブなどを安価に提供していたりなど、「相互理解」にお互いが協力しているところで、「当地でのもめごとはほとんど聞いたことがない」ところです。
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yukispica
あささんのコメント
2022年5月14日

↑パンフレットの間違いです💦

あさ
あささんのコメント
2022年5月14日

パンフラット並みの解説!さすがです👏

あさ
PTLさんのコメント
2022年5月7日

分かりやすく解説して頂きありがとうございました。この映画に対する理解が少し深まったような気がします。

PTL