劇場公開日 1972年4月

「本作は失敗作だとか言われているそうですが、とんでもないと思います 「危険な情事」より、面白くそして怖いと思います」恐怖のメロディ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作は失敗作だとか言われているそうですが、とんでもないと思います 「危険な情事」より、面白くそして怖いと思います

2021年8月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

邦題は本作の内容をその通り表現してあります
実に怖かったです

本作は1971年公開
危険な情事は1987年の映画
内容はほぼ似ていますが、正直本作の方が怖かったと思いました

本作は失敗作だとか言われているそうですが、とんでもないと思います
「危険な情事」より、面白くそして怖いと思います

本作は独身男性、危険な情事は既婚者の違いがあります
そこが男性が女性を口説くとスイスイ上手く行き過ぎるお話しが、自然でもあり怖さを増幅させてもいます

バーで女性を引っ掛ける為の偽ゲームに協力する赤いジャケットのバーテンはイーストウッドの師匠で名監督のドン・シーゲルが俳優として出演しています
低予算映画で金を節約したいのと初監督で少し頼りたいので彼にイーストウッドが頼んだそうです
まあまあ様になっています
特典映像でガチガチだったとイーストウッド監督が笑ってました
でもちゃんと胡散臭いバーテンに見えます

イーストウッドのDJも後のクワイエットストームのような静かな夜のジャズ局ぽい特徴を上手く出しています

イブリン役のジェシカ・ウォルターはじめ、映画全体にまるでヒッチコック作品のようなタッチがあります
とても初監督作品とは思えない巧みさです

中盤のロマンチックなシーンは、クライマックスへの高低差をつけるためのもので、観客を弛緩させるようによく計算されたゆったりとしたテンポと美しいカメラと音楽でした

モントレージャズフェスティバルもシーンも、トビーのルームメイトが代わったことを私達観客に気付かれないための仕掛けでした
しかもルームメイトが代わることがある伏線も序盤に張っています

ラストシーンは冒頭の断崖を眺めるシーンとつながっています

そして生放送中に番組のデモテープをかけてトビーを助けに行くシーンも、シーサイドのレストランでサンフランシスコの女性プロデューサーが呆れて帰ったあとに残された録音テープで、そのテープを作るシーンもあって伏線が張り巡らされているのです

そしてラストシーン
そのテープから
「ミスティを掛けて」の電話リクエストの声がして、そしてミスティが流れだします
なんと小粋な演出でしょう!
初監督作品とはとても思えません

「恐怖のメロディ」という邦題はそれでぴったりなのですが、この「ミスティを掛けて」の原題にある小粋さが抜け落ちてしまっています
なんとももったいないことです
現代なら、原題の英語をカタカナのまま邦題にしていたと思います

本作で流れるミスティは、レコードのものと違いストリングスが入ったより優美なもので、エロル・ガーナー本人に頼んで新録音したとのこと

中盤の美しいゆったりとしたシーンに流れる曲の美しさに感動すると思います
曲名は「愛は面影の中に」です
歌手は黒人歌手のロバータ・フラック
この曲はもともとは英国のシンガーソングライターの曲で、1969年の彼女のアルバムの中でカバーしたもの
それをイーストウッドがたまたまラジオで聴いて気に入って直接彼女に使いたいと交渉したそうです
本作は1971年の11月の公開でクリスマス前に公開が終わっています
しかしよほど評判が良かったのか、年明けの1972年1月にシングルカットされ大ヒットしたという流れです
シングルの方が1分ほど短いです
彼女はこのヒットでブレイクして大歌手になって行きます
永遠の名盤「ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ」は1972年の4月リリース
そしてあのメガヒット「やさしく歌って」は1973年8月の同名アルバムに先行して1月に発売されたシングルというわけです
本作にはそれ程のパワーがあったのです

本作の舞台はサンフランシスコとロサンゼルスの中間くらいのカーメル
サンフランシスコから南に200キロ、車で2時間くらい
日本でいうと葉山みたいな高級別荘地
劇中でも出てくるジャズフェスティバルで有名なモントルーはカーメルから北に10キロ弱車で10分くらいです
クロスオーバージャズのキーボード奏者で有名なジョー・サンプルに「カーメル」というアルバムがあります
ジャケットはまさに本作に登場した美しい海岸です

あまりの本作の怖さに動揺した精神を鎮めるには好適なアルバムです
合わせてオススメします

あき240