「にわかむけ」ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
にわかむけ
むかし(80年代半ば)イギリスにスミスというオルタナ系のバンドがいて、ものすごい人気があった。
わたしもスミスを愛聴していた。
今の若い人が(たとえば)中島みゆきを歌ったりすると、おっさんが「おれたちの時代を歌ってくれてありがとう」とか言って、いわゆる「人生の先輩マウント」をとってくる。
そういう手合いがかならず湧いてくる。
が、わたしは昔洋楽厨でほんとにスミスを愛聴していた。
もちろん、だからといって一ミクロンもマウントするつもりはない。
そもそも、誰かよりはやく生まれた──がマウントになるとは思っていない。
このレビューを書くにあたって、じぶんの情報がさんこうになるかもしれない──と思って書いているだけです。
バンドのカリスマは、ボーカルと作詞のモリッシーという人だった。
若い世代の思いを汲み、皮肉っぽくて内省的な詩を書いて、絶大な人気をほこった。
が、非英語圏のわたしは、ギター兼作曲のジョニーマーのほうを買っていた。
かれはソングライティングのセンスが(ものすごく)良かった。
これいじょうないほどいい曲を書く人だった。
じぶんにはギャラガーやマクアルーンよりも上でマッカートニーみたいな人物だった。
スミスはイギリスではアイドル的な人気があった。行く先々でワーキャーの歓声につつまれた。つまり今で言うAKBとかと同じくらいの人気があった。
ただし、音楽的な深度と、思想性もあわせもっていた。
AKBはどうなのか、解らないが、スミスの音楽は当時のイギリスの若者の生活に組み込まれ、かれらの心象を投影していた。
スミスを聴く人にとってスミスは「ソウルメイト」だった。
当時、アメリカではブリティッシュ・インヴェイジョン(英国の侵入)という現象がおこっていた。
アメリカの音楽チャートをイギリス勢が席巻(上位を独占)してしまう現象のことだ。
何度かインヴェイジョンはあったが、この80年代後半のがいちばん大きく長かった。
本作やチョボスキーの映画ウォールフラワーがちょうどその時代を描いている。
インヴェイジョン(侵入)の中には様々なイギリスのアーティストがいたが、もちろんスミスもいた。中心的な存在だった。
ただし。アメリカでもスミスは人気があったが、本作をごらんになるとわかるとおり、スミス好きは、アメリカではいわゆるギークと見なされた。(ゲイとも思われたはずだが、いまよりもゲイはタブーだったので、直結はしなかった。)
スミスの歌詞は内省的でひねくれており、アメリカのスクールカーストのなかで見た場合、スミス好きは間違いなくハミ出し者やオタクや文化部系だった。
モリッシーはクネクネしながら歌う人だった。その気配からも、とりわけ雄々しいアメリカ気質のハードロック系連中からは、スミスもそのファンも(ものすごく)嫌われた。
「軟弱なスミスなんぞ聞きやがって、キモい連中だぜ」──という感じだったと思う。
しかしガチムチなハードロッカーであっても、本質的な音楽愛好家からはスミスは悪く言われなかった。とりわけマーには(U2の)エッジのような敬意が払われた。
スミスを好きなひとはコアなファンになりやすかった。
「スミスもわりと好き」というのはなくて、のめり込むのがスミスファンだった。
(じぶんも経験があるが「スミスもわりと好き」と言うひとは、まちがいなくスミスを一曲も知らなかった。)
またスミスファンにはモッズやパンクやグランジのような外観(服装)の模倣がなかった。(モリッシーのメガネと髪型は真似されたかもしれないが)ファッションで特定しにくいのがスミスファンだった。
ジャケットはすべて古い映画のワンシーンをつかっていて、センスがよかった。
モリッシーの詩と賢いジョニーマーと映画のワンシーン──それらのパラメータから(じぶんもそうだったが)スミスを聴いているひとは自分が大人っぽくて世界を把捉できている──と思っていた。
おそらくすべてのスミスファンがそんなある種の優越をもっていたと思う。
したがって、前述のようにスミスをばかにする人がいても、その不分明を憐れんで、争いにはならない──という感じだった。
すなわち、それが優越だったとしても、一定の大人度がスミスファンにはあった──と言っていい。と思う。
(つまり個人的な認識においては、スミスファンはこの映画のような無軌道でだらしない人たちではなかった)
さて、映画だが「ザ・スミスファンのラジオ局ジャック事件」というのがあったらしい。その周辺のつれづれを、かなりダラダラの筆致で描いている。
ジョンカーニーとまでは望まないが、なんらかの同時代感覚を期待していたが、とくに感興するところはなかった。
スミスにご興味がわいたなら(他のアルバムもいいけれど)ラストのQueen Is Deadをきくといい。と思う。
スミスはじっくり、くりかえし聴いてよくなるアルバムを中心としたアーチストだ。
昔は曲単位でなくアルバムを通して聴く聴き方に意味があった。サージェントペパース~のようなトータルアルバムでなくてもそういう聴き方が不文律のようになっていた。
でも、すぐにいい感じの曲が聴きたいなら短いけれどPlease, Please, Please Let Me Get What I Wantを聴くといい。
かんぜんに余談だが、じぶん的にスミスのなかでいちばんお気に入りな曲はファーストの一曲目のReel Around the Fountain。
映画のなかで懐メロかけときゃ、旧世代が刺激される、ってわけでもない。
音楽映画見るたび、あらためてジョンカーニーのすごさがわかる。