ハウス・オブ・グッチ : インタビュー
レディー・ガガ、丹念な役作り惜しまぬ姿から垣間見る驚異的な成長曲線
レディー・ガガは、本物の女優だった。彼女にとって2本目の映画となる「ハウス・オブ・グッチ」は、そのことをはっきりと証明する。(取材・文/猿渡由紀)
デビュー作「アリー スター誕生」でも演技の才能を見せていたが、リドリー・スコット監督の「ハウス・オブ・グッチ」でガガが挑むのは、もう一段上のレベル。実話にもとづく今作で、ガガはパトリツィア・レッジャーニというひとりの女性を30年にわたって描いてみせるのだ。彼女を囲むのは、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、アダム・ドライバー、サルマ・ハエックら、オスカー受賞歴、あるいは候補入り歴のある実力派。そんな中でまるで見劣りがしないどころか(もちろん、ガガ自身もデビュー作で主演女優部門に候補入りしているのだが)、彼らからも絶賛されるすばらしいパフォーマンスを見事にやってみせている。
グッチの御曹司マウリツィオ(ドライバー)に出会い、恋をする若きパトリツィア。グッチ一家のビジネスに首を突っ込み、自分の思うほうへ舵を取ろうとするパトリツィア。そして、一度は愛したマウリツィオを恨み、暗殺を企てるパトリツィア。そういった変化を表現できることが今作の最高の魅力だったと、ガガはいう。
「私が22歳を演じるなんて、無理があるわよね(笑)。でも、私がそれをやって通じるとリドリーが信じてくれたのはありがたいわ。私はまず、脚本を何度もじっくりと読んだ。それからパトリツィアについてできるかぎりのリサーチをした。彼女についてのものは、全部読んだわ。ただし、この映画の原作となっている本だけはあえて避けている。あの本には強い視点があるからよ。私は、誰かから『パトリツィアはこういう人です』と言われることをしたくなかったの。そうじゃなくて、自分で彼女を見つけていきたかった」。
たっぷりとリサーチをした後には、パトリツィアになったつもりで日記のようなものを書いている。
「本人の視点でバックストーリーを書いたのよ。自伝のようなものね。彼女の誕生日、お母さんの誕生日の思い出。父との関係はどうだったのか、それに、一般的に男の人とどう接してきたのか。それを私は毎日読むようにした。すべてを体の中に入れ込むようなつもりで。マウリツィオと結婚してからのパトリツィアについては情報があったけれども、その前についてはあまりなかったから、私は遡る形で考えていかなければならなかったの。彼女が人格を形成していく上では、母親の影響が大きかったと思う。それに彼女は幼い頃、虐待を受けたとも私は思っている。そういったことを掘り下げていくのは、興味深かったわ」。
パトリツィアと出会った時、マウリツィオに一族の事業を継ぐ意志はなかった。しかし、叔父アルド(パチーノ)と仲が良くなったパトリツィアに引っ張られる形で、彼は家業に入っていく。パトリツィアも仕事への意欲にあふれていたが、しばしば「君はグッチではない」と、よそ者のように扱われることに。ニューヨークでグッチの偽物が売られていることを知り、怒り狂った彼女がアルドやマウリツィオに報告した時も、彼らの反応はすげなかった。そういったことを経るうちに、パトリツィアの中にやりきれない気持ちが積み重なっていく。
「パトリツィアは本当にマウリツィオを愛していたの。私はそう信じる。彼女をお金目当てみたいにいう人は多いけれど、結婚した時、彼はまだグッチを継いでいなくて、お金がなかったのよ。彼女は『私には、生まれながらに与えられたビッグなチャンスはない。でも、あなたにはある』とでもいうように、マウリツィオにグッチのビジネスを継ぐことを奨励した。彼にはできると思っていたから。そして彼女は、自分も重要な存在になろうとした。意見を言って聞いてもらえる存在になりたかったし、自分が来たところよりもっと高いところに行きたかったの。だけど、男たちから次々と無下にされる。そうやって彼女は追い詰められていった。もちろん、追い詰められた女性がみんな夫の殺人を企てるわけではないわ。だけど彼女は男社会を生き残るため、常にサバイバルモードで生きていたのよ。そんな中でお腹がすきすぎてしまったら? あるいは攻撃され続けて疲れてしまったとしたら?」。
心に暗いものを抱えたパトリツィアが頼りにするのは、占い師のピーナ。ピーナを演じるハエックは、ガガがテイクごとに思いもよらないことをやってみせるのに驚かされ、感心させられたと語っている。現場で自発的に何かが生まれることはとても刺激的だったと、ガガ。
「現場に入る前には、脚本を何カ月もかけて読み込んで、シーンを分析する。これは私の秘密だから言いたくないけれど、私には自分なりのシーンの分析法があるのよね。それを頭に入れた上で現場に行き、カメラが回り始めたら捨て去るの。そこからは、耳を傾ける。共演者が言うこと、やることに。そこから人間的なもの、リアルなものが生まれ、輝き始めるのよ。それに対して心をオープンにするの。しっかり準備をすることと、そこから自分を解き放つことの組み合わせ。それをやっている時、芸術の中で生きていると感じる。事実、撮影中、私はずっと自分がすばらしいアートの中にいるような気分だったわ。みんなから敬意をもってもらっているとも感じていた。この撮影は本当に素敵な体験で、今思い出しても鳥肌が立つ」。
ガガはまた、ヘア、メイク、衣装の担当者の仕事ぶりを大絶賛する。
「私たちのトレーラーは、まるで科学の研究所みたいだったのよ(笑)。入手できるすべてのパトリツィアの写真が時系列で壁に貼ってあって、それぞれのシーンでルックスはどうあるべきか、明確になっていた。午前中には30代後半のシーンを撮影し、午後には25歳のシーン、ということもあったけれど、そうやって完全に秩序立っているので、混乱は一切なかったわ。パトリツィアのためには15個のかつらが用意された。かつらをかぶるにあたっても、彼女らしく見えるように、その下にプロステティックが入ったキャップをかぶったし、ヘアケア製品も、その時代に忠実なものを使っている。リドリーはディテールをとことん重視するので、私たちは細かいところまで徹底を心掛けたの」。
ファッションは今作の見どころのひとつだが、おもしろいことに、ガガは衣装デザイナーに「パトリツィアをファッショナブルにしすぎないでほしい」とお願いしたそうだ。ファッションが前面に出過ぎるのは嫌だったからとのこと。それもまた、ガガの役者魂と、演技への自信の表れだろう。“女優”レディー・ガガは、ここからどこまで成長してくのだろうか。