「愉快な物語から社会の側面を知る」シチリアを征服したクマ王国の物語 shironさんの映画レビュー(感想・評価)
愉快な物語から社会の側面を知る
オープニングから心を鷲掴み!
手前の樹木の隙間から一瞬見える二つの影。
影の正体が知りたいのに、あちらの世界とこちらの世界の間には揺らぎの画面が挟まれていてよく見えない。
「もっと見たい、もっと知りたい」という好奇心でグイグイ引き込まれていき…
視界が開ける頃には、すっかり物語の世界に入り込んでいました。
見事な導入に、まんまとハメられました〜(≧∀≦)
そこからのシンプルな線で描かれる映像美が圧巻で。
なかでも光と影の素晴らしさ。
『第三の男』を彷彿とさせる影の演出や絵画へのオマージュ。
人物の顔にかかる影から、流れる雲を感じるロングショットのパノラマは、大自然の中のちっぽけな存在だと語りかけます。
季節の移り変わりも素晴らしく
さすがは『レッドタートル』の制作会社。
延々と続くクマ達の行列にも興奮しました。
個性豊かな愛すべきキャラクターたち。
クマダンスの楽しさ。
戦いのシーンもダイナミックな迫力がありつつユーモラスに描かれていて、これはアニメの強みですよね。
とくに魔術師の使う魔法が可愛すぎてお気に入りです♪
ものすごい地響き音と荒れ狂う海は、ぜひ劇場で体感して欲しい!
そして脚本もすごい。
テンポ良く物語が進み、二転三転する展開にドキドキハラハラ。
それもその筈、トーマス・ビデガンが参加しているのです!
『預言者』に痺れてからのファンなので驚きましたが、どおりでストーリーが骨太なわけです。
しかも語り部のジュデオンの声まで!どんだけ多才なん。
(『エール!』のリメイク『コーダあいのうた』も楽しみ)
この作品に出会える子供たちは幸せです。
愉快なクマの物語から、一筋縄ではいかない社会や人間の側面を知ることでしょう。
私にとって『白蛇伝』がそうであるように、一生心に残る映画になるに違いない。。。
愛や勇気が生まれるように、劣等感や懐疑心も生まれる。
時と場合で立場を変える登場人物たちからは、保身や欲望に対する人の弱さを知ることでしょう。
そして、異なる者同士が仲良く暮らせる理想の世界の先には、わかり合える美しさとわかり合えない不思議があり、相入れない領域があることを知る。そこに踏み込めばアイデンティティの侵害になりかねない、共存と共生の難しさ。
でも、この映画から得られる最も大切なことは「終わり」の続きの物語は、いつでも自分で紡げるということ。
想像力の羽をのばせば、どこまでも広く自由に飛べることを知るでしょう。
そして、大人である私自身も、この映画と出会うことで、穏やかで優しい死生観に救われました。
◾️追記:監督のインタビューより
オーソン・ウェルズの影の使い方が好きだそうです。キャロル・リードではなく失礼しました(^^;)
その他にはヘルツォーク、タルコフスキー、70年のドイツ映画、イタリア出身なのでフェリーニはもちろん、コッポラ。とくにウォン・カーウァイを“最後の偉大な監督”とおっしゃっていました。
そして、ロングショットのパノラマがとても印象的でしたが、監督には「空間を制御したい、空間を構成したい」思いがあるとのことで、影を描くにあたりエイゼンシュテインの『イワン雷帝』を観に行ったそうです。
なるほど!言われてみれば激しく納得!!
なぜわざわざ自分のレビューに追記したかと言うと、名前のあがった監督のファンの方々にもぜひ観ていただきたいから。
随所で楽しめると思います♪