「実に興味深いドキュメンタリー」ダ・ヴィンチは誰に微笑む arlecchinoさんの映画レビュー(感想・評価)
実に興味深いドキュメンタリー
レオナルドの幻の絵画「サルバトール・ムンディ」の、「再発見」から最終所有者の手に渡って現在も物議を醸している様を丁寧に描いたドキュメンタリー。「アートゲーム」「マネーゲーム」「国家」の3パートで構成されている。
「アートゲーム」編では、最初ボロボロで醜く加筆されたこの絵を「これは本物だ」と見抜いて(?)$1175で購入して復元を画策した画商、この絵をレオナルドその人の作品と信じ(?)「モナリザのように」復元した凄腕の絵画復元家、本物として展示したロンドンのナショナルギャラリーのキュレーター、ルネサンス絵画の専門家などが各々にこの絵について語る。真偽については諸説あるということだ。ある鑑定家の「これは現代作品と言ってもいい。85%は復元家の手になるものだから(本物の部分はあったとしても15%)」というのには説得力があった。先述の「(?)」は本人が「世間に向けて『本物だ』と語っている」ということであり、本心であるかどうかは不明なのだ。たとえ信じていなくても本物である方が彼らにとって都合がいい理由もあるのだ。
「マネーゲーム」編ではエグイ金儲けをする仲介業者、ブームを煽ってオークション価格を釣り上げるサザビーズのしたたかなキャンペーン。4億5千万をポンと出す国家(というか皇太子)。なかなか醜いマネーゲーム。「美術商の世界はドラッグ売買などの裏社会のようにいかがわしい」と語られる。本物だろうが偽物だろうがその金を出す価値がある、と思ったんなら買えばいい。芸術を買うというのはそういうことだろう。だけど現実はそんなもんじゃない醜いマネーゲームだということがわかる。サザビーズに謎の参加者が現れたので、冷やかしでないことを確認するためにサザビーズがオークションに出せる最高額の10%を入金してくれ、と要求したら即座に1億ドル入金された、というエピソードが笑えた。さらに、高額で販売されれば復元家にもリベートが行くということもここで明かされる。復元家は真面目で実直そうな人であったが、「本物と信じている」と言い続けたい理由(ウラ)もあるのだ。
「国家」編では金を飽かして買った最終所有者がサウジアラビアの皇太子であることで、この絵が国家間の取引に使われることが明らかになる。自分の絵をモナリザと同等の価値があるとしてルーヴルへの展示を要求する皇太子。サウジからのオイルマネーを自国の武器の購買に呼び込みたいフランス大統領。結局ルーヴルにこの絵が展示されることはなかったが、その理由は様々に憶測されていることも示される。この絵を飾ることはルーヴルの威信を棄損することだ、と大統領に手紙を書く鑑定家。「本物だ」というルーヴル館長の一文を掲載しながらも出版されなかったパンフレット....
実に面白いドキュメンタリーでした。個人的にはあの絵にはあまり魅力感じないんで、本物だとしても出して5万円くらいかなあ(笑)。この映画を観ての私個人の判定は「偽物」。というより根拠が薄すぎて(復元の加筆が多すぎて)とても本物とは言えない、というところかな。「真偽判定には10年20年のスパンがかかる」というもっともな発言もあった。方々の美術館にオファーしたが実際に購入に踏み切ったところはなかった、というのはそういうことだろう。
レオナルドには最近(といっても「サルバトーレ・ムンディ」を画商が安値で買ったころ)発見された(?)「美しき姫君」という作品もあってこちらも真偽が話題になっている。デジタル鑑定で本物と鑑定されたとされる。決め手はレオナルドっぽい指紋があることと、ハッチング跡から左利きの特徴がみられる、ということらしいのだが、贋作者にはそんな特徴を模倣することは容易らしい。所有者は高額で売り飛ばすようなことは考えていなくて、所有することで満足しているらしいことが救いだ。本物と信じて(あるいは本物と信じさせて)商売にするなら、それこそ数億ドルレベルの取引になるんだろう。私にはこちらの方が魅力的な絵だ。さほど修復もないようだし、10万円くらいまでなら出してもいい笑。(ただし現所有者が古美術商から買った値段は2万ドルくらいらしい。もし本物だったとしたらその古美術商は枕を涙で濡らしてるね)