「妻に先立たれ、古家でのひとり暮らしの70代の男性(渡辺哲)。 侘し...」茶飲友達 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
妻に先立たれ、古家でのひとり暮らしの70代の男性(渡辺哲)。 侘し...
妻に先立たれ、古家でのひとり暮らしの70代の男性(渡辺哲)。
侘しく寂しい毎日の中、大手新聞社の三行広告で「茶飲友達、募集。」と見つけた。
電話をして、相手方指定の喫茶店へ赴くと、小綺麗な初老の女性の横に、30歳前くらいの若い女性(役名、マキ。岡本玲扮演)が付き添い、若い女性のほうから会の説明を受ける。
マキが言うには、喫茶店などで世間話をする煎茶コースと、それ以上の大人の関係をつくる玉露コースのふたつがあるらしい。
男は、なにやら微妙な期待を含めて、玉露コースを選ぶ・・・
といったところからはじまる物語で、「茶飲友達(ティー・フレンド)」という会は、高齢者向けの性的サービスを斡旋する会なのだ。
映画はその後、ひとり暮らしで、スーパーで半額シールの貼ったおにぎりを万引きするぐらいまで精神的に追い込まれた初老の松子(磯西真喜)とマキの物語が中心となっていくのだけれど、その間にも茶飲友達の婦人たちや運営側の若いひとびとの様子も描いていきます。
実際にあった事件に着想を得てつくられているらしいが、会を運営する側を若い世代にしたことで、映画的な多層性が出、面白みが増しました。
特に、妻子ある男性と交際し、妊娠してしまう千佳(海沼未羽)の、母親になる決意はあるものの経済的に困窮して行き場がなくなってしまうエピソードが痛々しく、会が摘発される寸前に売上金を持ち逃げしてしまう顛末は、やるせない。
その他、脱サラしてパン屋を開業し廃業した父親を持つ送迎担当の青年の、ホームレスとなった父親やパチンコ依存の茶飲友達婦人との間で板挟みになるエピソードも印象深いです。
会を立ち上げたマキが事あるごとに「ファミリー」と口走るのは、老年世代から若年世代へと脈々と受け継がれてきた「家族幻想」「家族という呪縛」なのだが、そんな幻想や呪縛にでも縋るしかないあたりが、いまの日本の現実なのかもしれません。
観終わって脳裏に浮かんだのは、年初に公開された『ファミリア』。
本作の方が「ファミリア」のタイトルが相応しい。
また、『夜明けまでバス停で』も想起しましたが、希望を感じた『バス停』と比べると、やるせなざが残ります。
なにせ、映画のラストでは、冒頭の初老男性が崩折れますからね。