「なかなか深すぎて難しく見応え十分な作品 謎の人物リリスの考察に駆られてしまう…」ナイトメア・アリー R41さんの映画レビュー(感想・評価)
なかなか深すぎて難しく見応え十分な作品 謎の人物リリスの考察に駆られてしまう…
1940年頃のアメリカでおきた出来事を描いた作品。
カーニバルと呼ばれている、遊園地や見世物小屋などを集めた場所が舞台。
※主人公であるスタンに、この物語の様々なものが仕掛けられている。
作品をさり気なく見ていて判る部分とわかりにくさも手伝って、何度か見たくなるような魅惑的なものに仕上がっていると思う。
視聴者は主人公と一緒になることで、主人公と同じように見落としてしまう箇所がいくつかあることも面白さなのかもしれない。
冒頭に主人公の秘密が垣間見える。死者を家ごと燃やすのだ。
たまたま立ち寄ったカーニバルで雇われると、すぐにその仕事に馴染み、読心術のピートと仲良くなる。
やがて彼がカーニバルから独立して始めたのが、顧客を富裕層に絞り込んだかつての読心術だったが、それが次第に降霊術へと変化する。
これは至極一般的で、スタンがのし上がっていく過程でもあり、同時に妻モリーとの間隙も生まれるが、モリーの心境の中心が主人公同様に読みにくい。スタンに対する苦悩なのか、思った生活ではないという感覚の… 望郷のようなものなのか…
読心術というカテゴリであれば、それはショーでありマジックだ。この範囲は人を傷つけるものではなく、あくまでショーを楽しみにする人を喜ばせる。
しかし降霊術になれば、嘘と同じになり、時に人を大きく傷つける結果となる。
このモリーの心境がスタンの行動を追いかけることで見えにくくなり、同時に登場したリリス博士の怪しさに、そんな些細なことはどうでも良くなってその先を見たくなるのだ。
リリスの囁きに同意したスタンは、大金持ちの秘密をリリスから頂き、詐欺の降霊術で人を騙す仕事を開始する。
このリリスによって、スタンの過去が少しだけ明らかになるが、リリス本人が一体何を目的としているのかつかめない。しかし視聴者の興味は大金持ちのエズラの要望をどうやって満足させるのかというスリリングな場面へと誘われる。
結果はスタンの思ったものではなく、殺人まで犯してすべてを妻の所為にしてリリスのもとに転がり込む。
リリスはもらったお金全部上げるから逃げろと言うが、お札はすべてすり替えられた1ドル札だった。リリスに撃たれ、リリスに反撃しようとするがすぐ警備員がやってくる。
スタンは列車に飛び乗って何とか逃げ切る。
どれだけ逃げていたのか、それは彼の髪と髭が教えているが、彼はとあるカーニバルで雇ってくれと申し出る。これが物語の「オチ」になる。タイトルの「ナイトメア・アリー」は、かっては獣人を作るためにアル中の狩りをする場所だったが、今それは彼自身の人生を現実化するものとなったのだ。
さて、リリス博士は一体何者だろう? ここが問題だ。
彼女の胸の傷とホルマリン漬けのエノクは、映像的に被る。2日間母を苦しめ殺したエノクは、人間の腹黒さの象徴なのだろうか?
彼女はお金が目的ではないとした。同時にスタンに渡したお金をすり替えている。これは彼女の目的が達成された、または彼を見限ったことだと思われる。それは何?
彼女の胸の傷は、何? 彼女のその後は描かれていない…
彼女はスタンと観客という立場の群像では? 騙すものは騙される。でもしっくりこない…
リリスのウィスキーを飲んだことが、すべての転換期だったことはわかった。
大きな胸の傷とそのトラウマを持つ心理学者という金持ち相手のカウンセラーは、スタンの読心術に興味を持った。彼女がまだできないことだったからだ。
やがてリリスはスタンを読心し、I’ll do love you という彼の母の言葉を口にする。このとき彼はリリスに捕まってしまったように感じた。
そしてそこにこそリリスの真の目的、彼の読心術だ。この技術の取得が彼女の真の目的?
なんとも考えさせられる作品だった。面白いし、映画ならではの映像美に惹き込まれた。
そしてずっとどこかで見たなと気になっていたのがモリー役の女優、ルーニー・マーラ。あのドラゴン・タトゥーの女の主人公だ。彼女はどんな作品でも輝いている。