「デル・トロの撮る映画に求めるもの」ナイトメア・アリー ハルクマールさんの映画レビュー(感想・評価)
デル・トロの撮る映画に求めるもの
それが今回この作品を鑑賞して強く感じた部分
冒頭から意味深な火事のシーン。何やら意味ありげな大きな塊を家の床をくり抜いてできた大穴に落とし、火を放つ男。
その男が主人公のスタン。夜行便のバスに乗り終点で降り立つとそこには見世物小屋。
引き込まれるように中に入ると、事実と虚構の狭間をいくような出し物がいっぱい。
その中の、獣人(ギーク)という出し物を見物する。鶏の首にかみつき遂には食いちぎるギーク…。
仕事のないスタンは、その見世物小屋で小さな仕事を手伝ったことで一緒に働かないか?と誘われ、そのまま見世物小屋で雑用として働き始める。
時折出てくる戦争の話をもとに推測すると時代は1940年台前後。こういった人権だとか何だとかがまだまだ未熟だった時代で、いろんな背景を背負った人たちが見世物小屋で働いている。その中でスタンは読心術のプロ、ピーターと出会い、彼の鮮やかな手口に惚れ込み弟子入りを志願する。
序盤は見世物小屋の人たちとの穏やかな日々のシーン。時折キツめの映像演出は出てくるものの、静かに物語は進んでいく。そこから、師匠のピーターの死、そして見世物小屋を違法なものとして閉鎖させようとする保安官に、ピーターから学んだ読心術を駆使して閉鎖を回避するあたりから、スタンの自我が目覚めていく。
そこから物語は舞台を都会に移していく。
本作はその序盤から中盤、終盤にかけていくつかの大きな場面転換が行われていくのだけど、物語としてしっかりバトンを受け渡しながら話が進んでエンディングまでのスタンの人生を描いていく。
物語としては破綻もなく、また終わった後に余韻の残るような演出で、画的な綺麗さとかではなく、綺麗に収束していく。
でもね。
デル・トロの映画でまず強烈に思い出されるのは、パンズ・ラビリンス。あの強烈なヴィジュアルと主人公の少女の無垢さ、それに対する現実の残酷さ。ヘルボーイに見る、自分が大好きなものを撮るんだという変質的なまでの執着ぶり。
で、私も大好きなパシフィック・リムの大予算使ってロボット動かしたろ!なオタクムーブ丸出しの大娯楽作を作る、ある種幼稚な拘りぶり。
これがデル・トロの魅力だーってずっと思ってた。なので、シェイプ・オブ・ウォーターの時におや、とは思いつつも、その異形のハンギョくんとの恋愛というデル・トロ文律反則ギリギリの作品だったから、ほーこんなのも撮るのね、と驚いた。
で、今回。映画としてはちょっと説明不足と言うか、2時間半もある割に回収しきれない部分がありつつも、佳作には出来上がっている。と、思う。
だけど、このテーマなら別にデル・トロである必要はない、申し訳ないけど。それなら、むしろ全編見世物小屋パートでやった方が彼っぽい。そんな風に思った。
デフォーさんとかデル・トロ組お馴染みのパールマンさんとか、もっと活かしてー。
デル・トロどうしたんじゃい!という意味を込めて星3.5から-1.0とした。
この作品はモチーフとなるホルマリン漬けのエノクとその謂れ、これがあの女心理学者の腹の傷とリンクさせていることで、非常にミステリアスなものに仕上がっています。
あの女心理学者とはいったい何者なのかをどうしても考察したくなります。
恐ろしく意訳すれば、エノクの夢がこの物語なのではないかと感じます。
共感そしてコメントありがとうございます。
たしかに物足りなかったですね。
ハルクマールさんのあげて下さった作品群。
「シェイプ・オブ・ウォーター」が一番の好物でした。
オドロオドロしさが、もっともっと欲しかったですね。
そうなんですか?
えー新作予定は「フランケンシュタイン」
楽しみですね。