「優しい嘘より厳しい真実」ナイトメア・アリー everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
優しい嘘より厳しい真実
嘘吐きは泥棒の始まり
主人公Stanがten-in-one(見世物小屋)で芸を覚え、独立して成功を収めるが、欲をかいたために凋落していくダークファンタジー。
彼が会得する読心術同様、観客の観察力を試すような作品でした。
労働の最終目標は何なのか。
止まない賞賛か、羨望の的か、権力か。
貧困の記憶を消すためか。
少しでも多く金を稼ぐとして、
その先に何があるのか、何を求めるのか。
衣食住を満たせれば良いのか。
愛する人と踊りたいのか。
仲間と楽しく語り合うのか。
街の有力者であろうと過去に縛られている。
大富豪であっても愛に飢えている。
どんなに大金を積んだとして、忌まわしい記憶は消えないし、犯した罪を帳消しにもできない。愛と同じく、真の希望を買うことはできない。
度重なる忠告を無視し、禁じ手を用いてまで高みを目指す。Stanは頭は切れるけど満足を知らない野心家でした。映画後半にはその性格が顕著になりますが、独立前は、人好きのする顔立ちの、比較的素直で従順で、好奇心旺盛な若者という印象でした。貪欲な本性を前半でもっと出しておいた方が、後々分かりやすくなったのかなぁという気はしました。
÷÷ symbolismについて ÷÷
◯ラジオ
事実、現実、外界との繋がり
Clemに売った時点で、Stanは如何わしいパフォーマンスの世界に身を置く。自分の真の姿はgeekであると気付く部屋にはそのラジオがある。ラジオニュースを聴くClemはgeeksの、AndersonはStanの、現実世界における本性を見抜いており、また自分自身を見失っていない。
◯メリーゴーランド
将来への期待、夢、真の希望
MollyとStanが夢を語る場所。
◯腕時計
人間としての尊厳、人間らしさ
Stanの父親は死ぬまで身につけていた。
”He loved that watch... it was his pride.”
Mollyも身につけている。Stanは酒欲しさに腕時計を手放し、geekへと成り下がる。
◯白うさぎ
睡眠(shuteye)、神の監視/警告/審判
Peteの睡眠中には、うさぎのGeorgeが側にいる。パフォーマンスで嘘を吐き続けたら、”shuteye”で真実が見えなくなるとPeteは釘を刺していた。また、団員で劇中確実に死ぬのはPeteだけ。(最初のgeekは死んだか分からない。)
ちなみにうさぎさんの多くは目を開けて寝る。
(Georgeくん、唯一の癒しでした…。)
◯Enoch
親殺し、神の眼
胎児でありながら大人を殺す力を持つ。
どの方向からでも目が合う。
とてつもない存在感で度々登場し、全てを見ているといったご様子。
Stanは実の父親、及び義理の父と言っても良い師匠のPeteを殺す。(Peteにメタノールの瓶を与えたのかはっきりしないものの、後半、彼の死に罪悪感を抱いていることが分かる。)
一方、Mollyも実の父を亡くしているが、関係は良好であったよう。父親代わりのBrunoとも仲良し。
聖典に登場するEnochのうち、365年生きたというJaredの息子なのか、CainとAwanの息子なのかは不明。The Book of Jubileesに、Abelにあてがうはずだった妹のAwanに、Cainが恋して娶ったと書いてあるらしい。
(姿は単眼症児に酷似?)
◯酒
誘惑、堕落
言わずもがな。
Stanの弱点だとLilithが見抜く。
◯メダイユ
信仰心
Stanの交信術を信じた警官のネックレスは、最後新しい団長の首元に。
◯服装
赤い帽子やコート: 愛の象徴?
Mollyがよく着ている。
白いドレス: 純潔、無垢
MollyがStanを見捨てる際に着ている。
◯真紅の口紅
嘘、誘惑
Zeenaが第六感パフォーマンス中に付けている。Lilithはずっと付けている。
◯大金
偽りの希望
偽の交信術により得た金。大富豪Ezraは金で希望を変えると豪語。預けた報酬がすり替えられていたことで、StanはLilithの裏切りを知る。
◯タロット
予言、神のお告げ
ZeenaがStanを勧誘/誘惑する時は、
Star: 明るい予感、期待、チャンス
再会時に忠告する時は、
①Tower: 物事の終了、失敗、トラブルに注意
②Lovers: 恋愛の始まり、性的魅力
③ Hanged man(逆): 報われない努力、自分本位
(④ Hanged man(正): 自己犠牲、忍耐、試練)
◯(聖書における)名前の意味
旧約聖書はほぼヘブライ語。
理解を進めるための参考に。
・Stan
Stantonの愛称
石、stony meadow, stone settlement, from the stony town
“This name could only be from the UK or Ireland.” 警官を騙す時だが、Stanはスコットランド系(だから千里眼的能力があるの)だと話す。
・Pete
Peterの愛称
岩
岩に弟子入りした石…。
・George
farmer (earth, soil, work)
“God is my judge" in Hebrew.
・Zeena
hospitable
最後の新聞で、最終的にタロット占いを生業にしたことが分かる。
・Molly
Maryの愛称
sea of bitterness, drop of the sea, star of the sea, rebelliousness, exalted one, beloved, wished for child
・Lilith
夜の妖怪、悪霊の女王、female demon, night monster, storm goddess
ユダヤ伝承によればAdamの最初の妻。男児を襲う女の悪霊。
(↑“Carol”の時も生娘と美魔女でしたね😄)
・Bruno
brown, 茶髪の男
もう白髪だったような。
・Jedediah
well beloved, amiable, blessing
母親の愛を一身に受けてきたような警官の名前。
・Clem
Clementの愛称
mild, good, merciful
皮肉?
・Ezra
help, helper
旧約聖書に登場する律法学者、祭司。ユダヤのリーダー。
権力者という点では一致?
“The whole world and everything in it!”
Stanの口説き文句ですが、Mollyにとっては見世物小屋の外の世界も厳しいものでした。
“Ain’t hope if it’s a lie.”
“If you’re good at reading people, it’s mostly because you learned as a child trying to stay one step ahead of whatever tormented you. Now if they really did a number on you, then that cracks a hollow. And there’ll never be enough. There’s no filling that in.”
“I got “shuteye”. When a man believes his own lies, starts believing he has the power. He’s got “shuteye”. He now believes it’s true. People get hurt- good, God-fearing people- and you lie and you lie... and when the lies end, there it is: the face of God, staring at you straight, no matter where you turn. No man can outrun God.”
“….. it is only in being merciful to others, that a man has true power.”
Stanが交信術で言っているので、残念ながら嘘のようです。
“….. it’s not the clothes but the shoes that can tell you everything you need to know about a man.”
Peteの教え。
メンタリズムや占いのコツ:
“Think out things most people want, and hit them right where they live: Health. Wealth. Love.”
“Find out what they’re afraid of, and sell it back to them.”
“As long as you wanna know, don’t oversell it.”
“The thing you need to know is, if you displease the right people, the world closes in on you very, very fast.”
“Life happened to me.”
UK Biobank 36678人のデータから、いわゆる「適量」でも飲酒は脳萎縮を進めると、また新たな論文が出ました。現実から目を逸らさなければやってられない?むしろ呆けたほうが楽?神の監視のもと、残酷な世界を生き抜きましょう。
今晩は。
英文含め、じっくりと拝読させて頂きました。
凄いレビューですね。
何が凄いかというと、
”÷÷ symbolismについて ÷÷”
以降の考察ですね。
特に、エノクに関するところは成程と思いましたよ。
英文で書かれた所、ヒヤリングで暗記されたのでしょうか。
驚嘆いたしました。
只、”「適量」でも飲酒は脳萎縮を進めると、また新たな論文が出ました。”
ここは異論がありますね。(笑)
飲酒という一面だけではなく食生活と日常の生活を統合しての判断が欲しいと、“脳委縮”が進むNOBUは思うのでした・・。では、又。