劇場公開日 2022年3月25日

「越えてはいけない一線」ナイトメア・アリー おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0越えてはいけない一線

2022年4月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

物事がうまく進むと、ついつい調子に乗ってやりすぎてしまい、手痛いしっぺ返しを食らったり、破滅へと転がり落ちていったりすることがあります。本作はまさにそれを描いています。

ストーリーは、たまたまカーニバルの見せ物小屋でギーク(獣人)と関わったことから、そこで働くことになったスタンが、一座のピートから読心術の技を学んだことで自信をつけ、同じく一座で働くモリーと連れ立って独立し、自らの力でショービジネス界の頂点に立つことを目指すが、膨れ上がる野心を抑えきれず、禁断の技術に手を出し、引き返せないところまで突き進んでいってしまうというもの。

冒頭、主人公のスタンが重そうなずた袋を引きずり、家に火を放ち、あてもなくカーニバルの見せ物小屋に流れつくまでは、何が描かれているのかよくわからず、少々退屈な立ち上がりでした。しかし、スタンがカーニバルのメンバーから次々に技術を吸収し、アイデアを具現化させ、自らの可能性を広げていくくだりはなかなかおもしろかったです。

中でも、読心術の技とトリックは興味深かったです。コールド・リーディング的な手法はこれまでにも聞いたたことがあり、種明かしされればなるほどとなりますが、実際には、鋭い観察眼や洞察力と巧みな話術のなせる高度な技であると思います。これを目の前で、しかも自分に対して行われたら、疑いより先に驚きが立ち、誰もが信じてしまうことでしょう。こんな感じで、前半は、スタンが自らの資質や才能に気づくとともに、彼の野心に火がついたことがよく描かれ、後半へのフラグが立ちまくっているように感じました。

そして後半、スタンが一応の成功を収めるも、さらなる高みを求めて越えてはいけない一線を越え、破滅に向かってのカウントダウンが始まります。嘘をつくとすぐに顔に出てしまうようなチキンは自分は、ハラハラしっぱなしでした。終盤、モリーを巻き込んだスタンの企みの結末と、リリス・リッター博士とのやりとりが描かれますが、そこで終わらず、後日談からオチまで描かれたのはよかったです。結局、スタンは金も名誉も腕時計も失い、人間としての居場所や尊厳も失います。伏線が丁寧すぎて予想できるものではありましたが、冒頭からの伏線を回収してのラストは、悪くない締めくくりでした。

主演はブラッドリー・クーパーで、物語を通して変容し続ける、さまざまな顔を見せるスタンを熱演しています。脇を固める、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ルーニー・マーラら女優陣も、それぞれがぴたりとハマる好演を見せます。ウィレム・デフォーも、あいかわらず存在感抜群でした。

おじゃる