「米国での宗教の実態とジェシカの憑依演技が見所」タミー・フェイの瞳 ハベルさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0米国での宗教の実態とジェシカの憑依演技が見所

2022年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 ジェシカ・チャスティン、本年度アカデミー賞の主演女優賞獲得作品。いつ公開かと思ったら、日本では配信のみでそれも昨年末から見られたようで。布教の伝道師なんて日本ではまるで馴染みがなく、理解を超えた展開に驚くやら呆れるやら。ですが、すべて実話でチャンティン本人が熱望し権利を獲得した結果とか。まっとうなキリスト教への愛を布教と言うより伝道師、一段と深いところへ容易く誘う役割を担った夫婦のストーリー。

 なにより感受性が豊かで敬虔なキリストを信奉している純な少女が成長し、大学で出会った彼氏と意気投合、各地の教会を回って経典を解く。それでやっていけるか?って、感極まれば寄付の名目でお金が廻り、彼らの活動費も補えるわけで。それがテレビの力を借りた途端に一挙にスケールアップ、全米で知らぬもののいない伝道師としてのキャラクターが売れに売れ。次第にお2人の金銭感覚もタガが外れ・・・・おまけに夫婦仲にも亀裂が入り・・・最後は横領の疑惑まで・・・・と、絵にかいたような天国と地獄の絵巻物。

 殆ど実話をなぞるような展開で、ターニングポイントでの人物の深い描写にまで達せず、なにやらトントントンと描写が団子状態なのが本作の残念なところ、テレビ出身のミッシェール監督の力量今一つ。何が面白いって、米国での宗教の奥深さに圧倒されます。かのトランプ前大統領も含め共和党を支えるキリスト教団体ってのがタミーの属する団体なわけで、リベラルとは正反対の保守層の実態をまざまざと観察出来る。強大なパワーを握り、政治の策略も描かれるが、タミー自身はさらに純粋と言うか突き進んでおり、保守層の嫌悪するLGBTQへの寛容が素晴らしく、実際のエイズ患者とテレビ対談を中継し、同じ人間としての慈愛を唱える。この辺が人気の秘密でもある。ちょうど上沼恵美子が宗教番組を持っているような感じかな。

 神の愛に触れる裏側を描くのだが、なにより圧巻はチャスティンの演技に尽きる。どうみたって彼女と似ても似つかぬおば様に扮し、顎の輪郭変えドギツイてんこ盛りメイクが売りですが、目と鼻はチャスティンそのもの。我が使命とばかりタミーの神がかった臭い演技をジェシカが巧妙に好演する。オンとオフが明確で確かに演じ甲斐がある。ノミニー3度目の正直で、獲得も当然の乗り移り演技。本年主演女優賞ノミネートの5人のうち3人は既にオスカー獲得済、でクリスティン・スチュワートとジェシカのどちらかで、華奢な2人ともにご贔屓で悩ましかったが、ここは年の功を優先した結果。クリスティンにはまだまだこれからチャンスも来るでしょ。

 夫役のアンドリュー・ガーフィールドって凄い活躍で、本作の他に「チック、チック... ブーン!」で主演男優賞ノミネート、さらに「スパイダーマン」と大車輪。そしてディズニーに買収されてしまった20世紀フォックスで、このサーチライト・レーベルでの良作映画の先行きが案ぜられたが、「フレンチ・ディスパッチ」そして「ナイトメア・アリー」も含め、質重視の作品にチャレンジして頂きたい。

ハベル