「ダンスはいまいち、衝動はすばらしい。」よだかの片想い 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
ダンスはいまいち、衝動はすばらしい。
2021年。安川有果監督。島本理生原作の小説を映画化。頬にアザがある女性が、その女性をモデルにした作品を撮ろうとする映画監督と恋に落ちる物語。
アザがあっても強く生きる女性が、「があっても」に複雑な思いを抱いていく。その思いが、優しいけれども女性よりも仕事を重視している(と感じられる)恋人との関係と重なっていく。恋愛小説の旗手の原作だけに、恋愛の機微をうかがう繊細な感覚を取り上げる映画になっている。よくある恋愛映画の側面。アザについての主観的、客観的、幻想的な描写は独特ではあるが、心理的な説明が勝っている。サンバのダンスを「生の躍動」の文脈で描いているが、躍動感がまるでないのが残念。最後に大切な意義が見出されているのだから、あのダンスの描写はもっと躍動しているべきではないか。
閉じ込められた部屋から出るために衝動的に窓ガラスを割り、男への募る想いがガラスの破壊、流血、全力疾走によって描かれる。ガラスを割ったから男への想いが抑えがたくなるのだが、それは直後に落胆にも変わる性質のものなのだ。この急変のリズムがすばらしい。
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