「らみぱす、らみぱす、るるるるる。」よだかの片想い ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
らみぱす、らみぱす、るるるるる。
『島本理生』原作の映画化は
〔Red(2020年)〕が噴飯モノの内容だった以外は、
〔ナラタージュ(2017年)〕や〔ファーストラヴ (2021年)〕はなかなかの良作で、
勿論、監督や脚本に左右されようも、
『三島有紀子』が、あれだけの駄作を撮るのは、正直、意外。
で、本作、どちらかと言えば上作の部類。
とりわけ主な登場人物を演じた『松井玲奈』と『中島歩』の出来が極めて良い。
『松井玲奈』の方は、「NHK」の連続テレビ小説〔エール〕での好演で
意外とできる人と認識を改めていた。
それを凌駕する驚きだったのが『中島歩』のあまりにも素に近い演技。
何故か、自分の過去に観た映画ではチョイ役が多く
まるっきり印象に残っていなかったのだが、
今回の成りきり具合には、相当に驚愕。
ちょっと身勝手な男の造形を、てらいも無く、ストレートに演じている。
『アイコ』は生まれつき、左の頬に大きな痣がある。
幼い頃は母親主導で治療にもいどんだものの、
長じてもそれは大きくもちいさくもならず、変わらず彼女に顔に在る。
そのことが、人間関係にどのような影響を及ぼしているかは不明だが、
その痣と一生付き合っていく決意をした本人は思いの外超然とし、
却って周囲がそのことを気遣うほど。
自身は望みはしないものの、
顔に厳然と在る痣の存在を、
他人には肯定もして欲しくないし否定もして欲しくない。
要はあるがままの姿を見て貰いたい。
この構造は頗る面白く、本人と周囲が夫々、
気にしない×気にしない
気にしない×気にする
気にする×気にしない
気にする×気にする
の関係性が出たり引っ込んだりしながら、
ストーリーに膾炙する。
とは言え、その痣を主軸にしたルポルタージュ本が刊行され、
それを底本に映画化を望む監督『飛坂』と付き合うことになったのだから、
あながち負の側面ばかりとは言えず。
が、『飛坂』は、端正な外見とソフトな物腰、
知的な会話から知れるように所謂モテ男。
にもかかわらず、女性の影がチラつかないのは、
単純に映画馬鹿で、それに命を掛けているから。
『アイコ』は彼が自分と付き合いだしたのは、映画作成の肥やしにするためでは、と
次第に疑念を持ち始める。
本作では「痣」が一種の狂言廻しで、重要なパーツ。
その存在を外してしまえば、実体はどこにでもある恋愛ものと
プロットは変わらず。
ひょんなことから出会った男女が付き合い始めるも、
次第に疑いが芽生えて別離、しかしその後で
女性(若しくは男性)が人間的に成長する、との。
ここでもその定石は踏襲され、しかしあかつきに得られた、生きて行くための自信は
すかっとするほど爽やかだ。
「痣」の存在を際立たせるパーツとして、
ここでは鏡が多用される。
『アイコ』の顔が映る毎に、
存在が強く主張されるものの、
その表情は驚くほど多弁。
とりわけ、『飛坂』から貰ったコンパクトを
パチンと閉じるシーンは極めて印象的。