「君は、子供たちを守る事が出来るか…?」機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
君は、子供たちを守る事が出来るか…?
所謂“ファースト”の劇場版としては1982年の『~めぐりあい宇宙編』以来40年ぶりとなる。
が、ここで疑問が沸く。“ファースト”の新作劇場版などどうやって作るのか…?
以前『~THE ORIGIN』があったが、あれは“前日譚”。そもそも“ファースト”はTVシリーズ全43話で一本の作品として完結している。続きを作ったらそれは派生作品になるし、新エピソードなど蛇足に過ぎない。
そこでユニークな手法。『ドラえもん』の映画でもよくある。TVシリーズの一つの話を劇場用に“リメイク”。
『ドラえもん』の場合は基として別物語に話を拡げるが、こちらは概ね踏襲しつつ、新たな要素や解釈を加えた“大胆翻案”。
ロボットアニメの金字塔である“ファースト”の名エピソード中から選ばれたのは、ファンの間でも“神回”と呼ばれる第15話。
上層部より残敵掃討の命を受けたホワイトベース。洋上のある無人島へ。
アムロもガンダムに乗って索敵中、一機のザクの奇襲を受け、消息を絶ってしまう…。
負傷したアムロは助けられていた。この島で暮らす子供たちと、ジオン兵ククルス・ドアンによって…。
『機動戦士ガンダム』が当時の他のロボットアニメと一線を画すのは、単純な勧善懲悪でない事。
一応連邦軍が善、ジオンが敵と配置されているが、TVシリーズの中で連邦軍兵士が民家で横暴したり、ジオン兵士の人間味ある姿が描かれたエピソードも。本作はその象徴と言える。
島の子供たちは戦争孤児。
戦争によって家族や家、本来歩む筈だった人生を奪われた。
別にドアン自身が子供たちから奪った訳ではない。が、戦争に加担していたのは紛れもない事実。
自分のやってきた事が彼らを孤児にしている…。
そしてドアンは闘いを放棄した。
子供たちを守り、保護し、孤児であっても明るさと健気さを失わない彼らと共に生きる事を…。
しかし、“古巣”は彼を許さなかった。
ドアンが指揮していた“サザンクロス隊”。
ドアンの所在を知り、現隊長は憎しみを燃やす。
裏切り者に粛清を。死を。
そんな中でアムロは…。
連邦vsジオンの本筋とはさほど関係の無いエピソード故、劇場版三部作からはカット。
しかし改めて見ても、一つの話としては優れている。
アムロと敵対側兵の交流。
過去からの呪縛。ドアンと元部下の因縁。
ドアンと子供たちの運命。
戦争の愚かさ。
それでも争いは避けられない。何の為に闘うのか…?
現実問題でも戦争が問題になっているからこそ、響くメッセージ。
作画は遥かにクオリティー&迫力アップ。
ガンダムvsザク、ザクvsザク、クライマックスのサザンクロス戦…。
基のエピソードのシーンも再現するなど、ファンには堪らないだろう。
先述の通り“大胆翻案”。新たな設定や要素、描写も。
サザンクロス隊は本作での新設定。ドアンを苦しめる過去として、これは悪くないが…
子供たちが4人から20人以上に増えた。もっとドアンと子供たちの交流を深めようとしたのだろうが、全員が深掘りされている訳ではない。
スレッガーがもう登場している…!
30分弱の一つのエピソードを100分超えの長編にした故、間延びした感も否めなく…。
キャラ一人一人、眉間に皺を寄せるようなリアクションがやたらと多く、よりドラマ性やキャラ描写を増したと言うより、ちとテンポに欠ける。
ヤギのドタバタギャグシーンなど、せっかく尺を伸ばした中で絶対に時間を割く必要あったのか…?
『スター・ウォーズ』が『特別編』として再公開された時、オリジナルに手を加えられ、熱心なファンからは冒涜と非難された事あるらしいが、それと似た感を受けた。
オリジナルはバイブル故、賛否両論。熱心なファンからはかなり厳しい声も目立つ。
オリジナルでアニメーションディレクター/キャラデザイン/作画監督を努めた安彦良和が「自分にとって最後のガンダム」との意気込みで監督。
不滅の人気の作品は時に、作り手側の思いと見る側の望みに“ズレ”が生じる事もしばしばあるが、それも作品を愛するからこそ。
アムロ=古谷徹やカイ=古川登志夫は続投(シャア=池田秀一も)、ブライトやマ・クベなどすでに旧声優が故人になっているキャラの新声優は違和感なく、メインキャラのドアン役の武内俊輔も好演。オリジナルの音楽を編曲して使うなど、心憎い演出も。
賛否が出るのは当然。が、個人的には一本の作品として見応えはあった。
何より“ファースト”をまた新たに見れた事が最大トピック!