「隙のない格闘シーンが見どころかな」ただ悪より救いたまえ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
隙のない格闘シーンが見どころかな
大韓民国は徴兵制度がある。2年間の兵役で戦争の訓練をするのだ。武器や車両運搬具の取り扱い、近接格闘術などの基本的なスキルを身につける。部署によっては戦闘機や潜水艦の操縦なども学ぶらしいのだが、基本は武器や格闘術で敵を殺す技術訓練、敵を殺すことを躊躇しない心理訓練が中心だ。
戦前の日本の軍隊と同じだが、満州に侵攻した関東軍がしていたような、無辜の中国人を縛り付けて銃剣で刺し殺すような訓練はしていないと思う。多分。
兵役のせいなのかはわからないが、韓国のアクション映画は、情け容赦のない格闘シーンが特徴であり、見どころでもある。アクション俳優の多くがムキムキに身体を鍛えている。そういえば「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンも脱いだら筋肉が凄かった。
本作品も格闘シーンは隙がない。互いに武器を持てば、よほどの実力差がない限り、無傷ではいられない。「肉を斬らせて骨を断つ」が基本だ。肉弾戦に加えて、強力な武器の使用もあるから、爆発、炎上といったハリウッドのB級映画ばりのシーンもある。そのあたりが本作品の見どころだと思う。
ただ主演の役者が細すぎて、どうにも強そうに見えないのが憾みである。それに表情も冴えず、行動に見合うだけのエネルギーを感じなかった。韓国の役者事情は不案内だが、もう少しマシな役者がいるのではなかろうか。
朝鮮系の日本人ヤクザを演じた豊原功補のシーンは暗すぎてパッとしなかった。その弟の殺し屋が主人公の敵役だが、こちらの方はそれなりに強そうだった。しかし日本の殺し屋が単身でタイに乗り込んで、すぐに核心の場所に行けたり、英語が喋れたりするのは、ちょっと都合がよすぎて、やや興冷めだった。
臓器移植について様々な議論があると思うが、当方としては、医学がそこまでやっていいのかという疑問が常にある。人体は人類にとってまだまだ神秘である。医学で解っていることは1%もないというのが当の医学界での常識だ。にもかかわらず患者の身体を切り刻む。解っていることだけで判断するからそんなことができるのだ。インカ帝国で頭蓋骨に穴をあける手術をしていたが、やはり解っているつもりでやっていたのだと思う。
とはいえ、インカ帝国の穿頭術でも生存率が上がったらしい。現在の外科手術で生存率が上がるのは当然だ。技術が進めば他人の臓器を移植する発想は自然に浮かぶ。移植すれば生きられるとあっては、臓器の価値は上がる。金持ちが優先的に臓器移植を受けられることになるかもしれない。それは不公平だという議論が起こったり、国によって基準が違ったり、臓器の売買が横行したりして臓器移植の実態はカオスとなる。
日本の厚労省が日本の臓器移植手術をどれだけ把握しているのか不明だが、もしかしたら日本でも富裕層の患者の移植手術のために違法な調達をしているかもしれない。日々起きている死亡交通事故や、毎年8万人を超える行方不明者は、臓器を取り出すためなのではないかと、変な憶測まで浮かんでしまった。