「アメリカは政治を絡めた自国批判の映画が本当にうまい」ドント・ルック・アップ えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカは政治を絡めた自国批判の映画が本当にうまい
巨大彗星(すいせい)が地球に衝突する可能性を必死に訴える2人の天文学者。だが、情報が氾濫する世界では、誰ひとりとしてその警告に耳を貸そうとせず...(公式サイトより)。
「毎日、人類の危機に関する報告が来る」と辟易するメリル・ストリープ演じる大統領閣下は、選挙を控え、権力死守にしか興味がなく、メディアは視聴率争いと過剰なコンプライアンス意識から極端に楽観的なスタンスで物事を報じ、SNSは虚実が入り混じった情報空間でファクトチェックも科学的考察もへったくれもない。当初は天文学者としての使命感に燃えていたディカプリオ演じるミンディ博士も期せず時の人となりうっかり選択を誤り、彗星の発見者であるジェニファー・ローレンス演じる大学院生のケイト・ディビアスキー(彗星の名前はディビアスキー彗星)は狂人扱いされ、虚無化する。
本作を「フィクション」と一笑に付せるほど現実が健全かというとそんなことはないわけで、「シビル・ウォー」のようにシリアスではなく、「アメリカン・フィクション」のようにコメディタッチで描いてくれてほっとするが、アメリカは政治を絡めた自国批判の映画が本当にうまいと思う。日本映画にはあまり見かけないジャンル。
2時間20分を超えるまあまあな大作だが、エンタメ的な要素、テンポの良いストーリー展開でそこまで長さを感じさせない(が、もうちょっと短くできたかもしれないとも思った)。製作陣は遅々として進まない気候変動対策への警鐘と本作を位置付けており、公開時は団体とタイアップしてキャンペーンをサポートしたとのこと。しかし、「ROMA」がアカデミー賞を獲った2018年の衝撃から、Netflixオリジナル作品がわずか数年でこんなオールスターキャストの映画を次々と世に送り込むようになるとは、予想だにしていなかった。