「米国の政治経済社会に対する徹底的な風刺とパロディ」ドント・ルック・アップ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
米国の政治経済社会に対する徹底的な風刺とパロディ
本作は何より米国の政治経済社会の全般に対する風刺、パロディ映画である。
例えば、地球を壊滅させる巨大彗星を発見して大統領に報告したなら、「それは大変だ。ただちに対策を考えよう」というのが普通のパニック映画だ。
ところが本作では、女性大統領が「そういう話って多いのよね~w 巨大地震とか温暖化とか氷河期が来るとか、太陽が膨張するとか。で、あんたたちはどうして欲しいわけ?」。これはハリウッドで量産されるパニック映画のパロディなのである。
いかにも頭の悪そうな大統領補佐官が大統領の息子だというのは、補佐官や上級顧問に親族を据えていたトランプ政権に対する風刺。
サッチャー首相を演じたメリル・ストリープが選挙で勝つことしか考えないバカ大統領を演じているのは、ヒラリーら女性政治家への風刺。
大統領選に入ると、この大統領は"Don't Look Up"をスローガンに掲げる。これはオバマの”Yes,We Can”やトランプの"Make America Great Again"になぞらえたフレーズだから、こうしたスローガンがいかに無意味かと嘲笑しているのである。
大統領に巨額の寄付を行って、大きな影響力を持つIT企業経営者はスティーブ・ジョブズ。一見、仙人然としているくせに、自分に批判的な人間を次々にクビにして誤った結論を導き、最終的には自社の儲けしか考えていない愚劣な男と描かれているが、ここにはGAFAの経営者全員が投影されているはずだw
人類を脅かすニュースを人気歌手の恋愛沙汰より遥かに軽く扱うTV局のワイドショーは、米国TVメディアの風刺だし、その軽薄な女性キャスターがゲストと出来てしまうのも、TV界のセクシャルハラスメントを描いている。
そして、最後の風刺は人類滅亡後の地球で、最後に生き残った大統領のバカ息子がSNSで中継するラストで、これはもちろんネット社会、IT産業の空虚さへの嫌味である。
その他、無数のネタとおぼしきシーンが次々に繰り出されるのだが、残念ながらそのすべてについていくのは米国に住んでいないと難しい。風刺、パロディとは対象や元ネタを知っている人にしか通じない部分があるから、日本人には途中で中ダルミしたと感じられるだろう。
ホワイトハウスで政府のお偉いさんが、無料のミネラルウオーターとクッキーをダシにつまらない小遣い稼ぎするのは何なのか? ディカプリオ演じる大学教授がさまざまな合法薬物を呑みまくっている箇所などは、何を当てこすっているのか? これらは小生には皆目わからない。
風刺映画の大傑作と言えば『博士の異常な愛情』が思い浮かぶが、あの徹底的にシニカルなブラックユーモアとは比ぶべくもない小ネタ、ジョークばかりなので、さすがに十分堪能するという訳にはいかなかった。とはいえ、風刺映画が少なくなった現在、ここまでドカンとやったのは面白いし、尊敬に値する。