ちょっと思い出しただけのレビュー・感想・評価
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「タクシー」と「バレッタ」そして、時間軸を遡る巧みな演出に見事にやられた
“エモい”って言葉が最高に似合う作品だ。
思ってた以上にいい!同じ日に見たウェストサイドストーリーより全然いい!なんだろう、自分の琴線に触れてラストは涙が溢れた。
生きていれば誰にでもある“ちょっと思い出す”こと。とりわけ若い頃の恋愛、元恋人との思い出はちょっとしたことをきっかけに、例えば彼の誕生日とか、思い出の場所などを通ったり聞いたりするとその瞬間、瞬間で思い出す。
物語は2021年7月27日東京オリンピックが開催されているコロナ禍から2015年7月27日まで遡る。7月27日(水)で止まったままの時計や、電気のスイッチがタイムマシーンのようなものとなり、ごく自然に物語は過去へ過去へと遡っていく。これ、意識して見ていないと気づいたらあれあれ?ってな感じになるが、マスクの有無で分かるかと。
愛する人と過ごす「時間よ止まれ!」と願う幸せなひと時はあっという間に過ぎていく。だけど時は淡々と過ぎ去り、ときに残酷に、その現実を突きつける。そして私たち人間の感情もナマモノ。常に移り変わり変化し続ける。
対して止まったものとして描かれているのは、照生くんの部屋にある止まったカレンダーの時計とベンチで妻を待ち続けるジュン。
人も、街も変わりゆく。だからこそ、その時、その瞬間を大切に、伝えたい言葉は伝えようねっていうメッセージ性が感じられた。
それにしても脇役に主役級の大物たちが勢揃い!池松壮亮と成田凌というよく似た二人が出演するのもちょっと嬉しい。
※以下ネタバレになります
タクシー運転手をする葉が長髪の照生に誕生日プレゼントでバレッタを贈った。
「タクシー運転手」って今は女性のドライバーも沢山いるが、圧倒的に男性の仕事というイメージがまだまだある。また「バレッタ」は女性の髪の毛をまとめるアクセサリーとしての認識があるが、本作でその固定観念を取り払ったことに称賛を送りたい!
本作のラストには『そうきたか〜!』って。
みーんな何かしら折り合いをつけながら、生きている。
ラストシーンは共感しまくりだ。わたしが女性ってのもあるのかしら?適齢期に結婚して子供を産んでっていう、惰性と妥協と少しの計算。適齢期の、特に子供が欲しいと願う女性の場合はとりわけその傾向が少なからずあるんじゃないかな。本作の葉のように、私だってそうだった。
高校生だった和泉ちゃんは大学生となり、中井戸さんの意中の相手も一気に年上の男性に変わり、照生くんの仕事も変わって、葉のタクシーの車も変わる。
変化してゆく、人生ってそんなもの。誰かと出会って、別れての繰り返し。二度と同じ瞬間なんてないんだから。だから大切に大切に毎日を生きたい。
めっちゃノーランみを感じる
完全にノーマークの作品でしたが、めちゃくちゃ評価が高かったので鑑賞。恋愛映画であるということは事前に聞いていましたが、具体的な内容については全く知らない状態での鑑賞です。
結論ですが、良かった!!事前情報を全く観ていなかったのが逆に良かったのかもしれませんね。本作の映画の特殊な構成によって、序盤に感じた違和感が「そういうことだったのか!」と解消される瞬間の爽快感は、事前情報があったら得られなかったと思います。
構成に凄く既視感がありましたが、クリストファー・ノーラン監督の『メメント』ですよね。最初は一瞬「どうなってるんだろう?」って思うけど、観ているうちに「あ!そういうことか!」と気付き、構成の上手さに驚かされます。
昨年公開の『花束みたいな恋をした』と内容が似ていると言われていますが、どちらかと言えば『(500)日のサマー』の方が近いように感じます。ただ、どの作品も独自性があって素晴らしい映画ですので、『ちょっと思い出しただけ』が気に入った方は『花束みたいな恋をした』『(500)日のサマー』もオススメします。
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怪我によってダンサーへの道を諦めて舞台照明の仕事をする照生(植松壮亮)と、タクシードライバーとして働く葉(伊藤沙莉)。二人のさりげない日常を描きながら、東京の町での人々の人生の機微を描く。
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大きな事件が起こらないのに、些細な会話が続くだけなのに、全くダレるシーンがなく楽しめる。会話の一つ一つが、きちんと意味を持って存在している感じが見て取れる。
植松壮亮さん演じる照生の誕生日(7月26日)を一年ずつ遡っていく物語構成のおかげで、「将来こうなるんだ」というのが分かった上で二人のイチャイチャを見せられている感じ。足を怪我した照生がダンサーとしての夢を諦めざるを得なくなり、葉と喧嘩して二人の関係性が崩れてしまった日。その展開を知っている状態で、その一年前に「来年の誕生日にプロポーズしよう」って言っている照生を見せられるわけです。観ていて苦しい。こういう「一年後が分かっているからこそ、何気ない言葉が刺さる」というシーンが結構多いんですよね。
小物に意味を持たせているところも素晴らしい。
特に印象に残っているのは「ケーキ」と「バレッタ」。ダンサーを目指している照生は厳しい食事制限を行なっていたため、自分の誕生日であってもケーキはほとんど食べません。せいぜいクリームをちびちびと啄んだり、ケーキの上に乗っかってるイチゴを食べるだけです。しかし、劇中には2回ほど、照生がガッツリとケーキを食べるシーンが登場します。つまりそれは「ダンサーとしての夢を諦めている」ことを表しているんです。髪を切ってからもバレッタを手放さなかったのは、ダンサーとしての夢とかつての恋人である葉への思いを断ち切れていない証左です。
劇中には上記のようなディテールにこだわりを感じるシーンが多数ありましたので、本当に細部まで作りこまれた脚本や画作りがなされているなと感じます。こういう作りこまれた映画は大好きです。観終わった後、観た人同士で「ここが良かった」「このモチーフにはこういう意味合いが含まれてそう」と語り合うのも面白そうな映画です。
役者陣も非常に素晴らしく、特に主演の二人は文句なしです。個人的に、コンパでイマイチ周りの雰囲気に乗れずに居酒屋の外に出た葉をナンパする男の役で、お笑い芸人であるニューヨークの屋敷さんが出てきたのは驚きました。後からニューヨークさんのYouTubeチャンネルを見てみたところ、本作の監督である松居大悟さんとは古い友人らしく、その繋がりで出演したらしいですね。そこそこ台詞量もある役だったんですが、演技は普通に上手だったので全く違和感なく観ることができました。
間違いなく、今映画館で観るべき映画でした。本当に面白かったです。
オススメです!!!
過去を肯定して背中を押すコロナ禍で生まれた傑作
誰しも時間は平等に過ぎ、時代も世の中も変わって進んでいく中で、ふと立ち止まって“あの頃”を思い出してしまう瞬間がある。そんな人生の機微を優しく包み込んでくれる愛おしい映画だった。一年のうちの“ある一日”の6年を切り取り、描き出す情景と描かない余白のバランスが絶妙。クリープハイプのアーティスト名の由来にもなっているジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』。アルバムの表題曲でもある、映画と同名の楽曲を、盟友である松居大悟監督が丁寧に映像で紡いでいく。コロナ禍で生まれた楽曲と映画が、コロナ禍以前の当たり前の日常の尊さを思い起こさせてくれた。今が悪いわけでも、過去に執着するわけでもない、ただ、“ちょっと思い出しただけ”なんだと。過去を肯定して背中を押す、松居大悟監督の、ある到達点に達した瞬間をみた。
誰にでも甘酸っぱい記憶
余韻に浸ってます。
観た直後は東京の街の見え方がちょっと変わりそうな、そんな映画。当たり前だけど、こんな大都会でも一人一人の暮らしがあって、感情があって、全てがドラマなのだと気付かせてくれる。
タクシーでのシーン。東京の夜景と共にドラマがある。すごく綺麗。情報によると、ちゃんと車を牽引して撮影したらしく、その丁寧さがちゃんと映像に残っている。
最近のドラマ見ていると、そこが手抜きなのがすぐバレて冷めるのよね。
そして池松くんと沙莉ちゃんコンビ、素晴らしいね。
最初から実は若干会話が噛み合わないところが、その時はあまり気にならず、結局別れる原因になるのも会話の噛み合わなさだったりする。あるあるかよ!?!分かりにくく、丁寧な伏線。すげーな!丁寧だな!
そして、あの池松くんの優しい口調なに?!好きになっちゃうんだけど!たぶんね、たぶん、ダメ男の部類に入ると思うのよ!映画はそこをピックアップしているわけじゃないから分かりにくいけど、たぶんダメ男!でもいい!わかる!
2人とも芝居も丁寧だわー。いいなぁー。
そして脇役が豪華。
言えるうちに言っておいたほうがいいですよ。メーター、止めましたから。
7月26日を、ずっと遡る。環境や風景や付き合いや髪型がどんどん元に戻っていく。でも、変わらないものもある。ずっとそこにあったのに、こっちの心の変化のおかげで変わってみえたもの。それは、過去から未来へのスムーズな時間経過では気付かないものだ。たとえば、古い建物が壊されて、空き地になって、新しいビルが建ったとしても、なんの感慨も湧きはしない。ところがもし、定点カメラで撮った写真を、1年ごとに巻き戻していくと、ああ、ここにはこんな味な古民家があったのか、あんな風景が眺めることができてたのか、って懐かしいような勿体なかったような、そんな郷愁に襲われると思う。この映画は、あるカップルをそんな視点で見つめた映画だ。そこに、ある時の自分を投影もするし、その時付き合ってた彼女の面影を思い出しもする。それは先日の『ボクたちは大人になれなかった』を観た後の心のしこりに似ているし、『街の上で』や『愛がなんだ』でも同様のセンチメンタルな感情に襲われもした。結局、映画の楽しみの一つは、過去の自分との再会とか、主人公に仮託する自分の憧れ、そういうものが満たされたときに、うれしい涙を流してしまうことなのだろう。
ラストの葉、自分には幸せにみえた。それは彼女が今の生活に満足していると思えたからではない。ベランダにもたれた彼女から、思い出した時にふと微笑むことができる過去が自分の中にあるって確かめられた、そんな笑顔を観ることができたからだった。そう、マスターに問いかけられたテルオがはにかみながら「ちょっと」って答えるのも、たぶん同じ感情だったのだと思う。
そして僕がそこに共感してしまうのは、今日、"誕生日"クーポンを使って一人ぼっちで観たせいかもしれない。欲しいものを手にすることだけが必ずしも幸せだとは限らないよって、今の自分を肯定してくれたような気がした。
そうそう、尾崎世界観、かれの風貌と貫禄、いい時間の流れを醸してたなあ。おまけに音楽がばっちり映画の"世界観"に嵌ってた。『八月は夜のバッティングセンターで。』のエンディングを思い出しながらきゅんとしちゃった。
心に深く刻まれるほど現実的で共鳴してしまった素晴らしい作品
「花束みたいな恋をした」「明け方の若者たち」そして「ちょっと思い出しただけ」...。昨年から立て続けに、現実的なシチュエーションで描かれたラブストーリーが多いが、この作品は特に印象深いが為、瞼に焼き付くほど今後も記憶として残りそうです。一連の、どの作品も悲しみや寂しさ、重さを感じるものがありますが、決して後味が悪いとか滅入る作品でないのは、共鳴する題材で描かれており、他人事のような話や夢のような物語ではないからだと思います。「花束みたいな恋をした」は幸せ過ぎる恋愛から時と共に歯車のズレを描いた作品、「明け方の若者たち」は不倫の先に待ち受ける現実を描いた作品、そして今回のような「ちょっと思い出しただけ」のように、どんなに好きでも一緒になれない運命を辿ってしまう作品は、以前大ヒットし実際にもハッピーエンドとなった「糸」とは違い、職業や状況など映画とは別物でも、近い人生を歩んできた人は少なからず居るはずです。私もその一人故に凄く共鳴しました。物語の中で、時間が前後したりしますが、決して判りずらいとかは無く、自然に物語が描かれ流れていきます。最終的に思うように行かないラブストーリーかも知れませんがラストの描写は最高です。2時間以上の上映時間ですが1度たりとも眠気に襲われるようなことはありませんでした。とにかく、今は幸せなんだけど過去を引きずっている人、でも過去には絶対戻れない・戻らない人、ぜひ観て下さい。
そういえば・・・
ふと思い出す過去の様々な想い出を誰にも分るように客観的映像にしたら正に今作品の上映時間になるという事を、低評価のレビュアー達はまず再認識した方が良い。”ちょっと”という主観的な時間軸が如何に長いかが余りにも自覚できていない人の散見ぶりを読むにつれ、脊髄反射でハリウッド映画ばかり、お粥のようなドラマを見続けてる人の思考をぶつけられて悲しくなる。監督の何方か、次回のテーマにこういう思考停止輩の日常を描く作品を作って欲しい程だ。
そういう人が、例えば何か体験をしたとして、頑張って理解しようとすることは苦痛なのであろうか?風俗で"鮪"に出くわした時の憤りを、しかしそれを想像出来ない脳みそのシワが少ない自分を先ずは馬鹿にすることが正解なのである。
人生なんて思い通りにならないパーセンテージは9割以上。思い通りに言ってる人は映画なんて観ない。現実が映画的なのだから。
好き嫌いのハッキリするタイプの今作を、自分の心に刺さらなかっただけで、星の数を減らす愚行に憤りを感じる昨今である
ちょっとどころじゃなかった
ここまで、好きだなぁ〜と思える映画に今まで出会うことがなかった。
初めから終わりまでの空気感がずっと心に響いていて
そう思うのは映画の構成が関係しているような気がする。
池松壮亮さん演じる照生と伊藤沙莉さん演じる葉が
描かれているポスターなのに、全然ツーショット出てこないじゃん!と思いながら、画面は黒みになり
「カチッ」という時計の音。
この時計の音の変化や2人の周辺の人間関係、憎まれるような人間が出てくることはなく、一人一人のキャラクターの厚さが終始心に響いてきました。
各パートで会話の間や映像の使い方が好きだなぁ〜となりました。
例えば、シロクマやニューヨークの屋敷さん演じる康太と葉の漫才のような会話などなど
最終パートでの照生の「ちょっとね」というセリフで
溜まっていたものが溢れてしまったけど
それは悲しいとかじゃなくて
ただこの2人には幸せになってほしいと願うものでした。
今まで観てきた作品の中で、面白いとかそういう表現じゃなくて好きだと思える作品です。
余韻がすごい
最後屋敷さんが全部持ってった。笑
伊藤さんも池松さんも素晴らしすぎる。。特に伊藤沙莉ちゃんは元々大好きな女優さんで、自然体だけど存在感があって流石。
段々幸せだった頃に戻っていくのがめちゃくちゃエモい。辛い未来がわかってるからこそ、美しいし尊く見えるのかもしれない。2017年?の二人のピークの頃がなんかもう幸せ過ぎて泣きそうになってしまった。
もう一回必ずみたくなる映画。恋の始まりを見てからの序盤はまた違って見える気がする。1日だけを描いた映画だからこそ、たくさんの余白があるのでたくさん考えさせられてしまった。
実は屋敷と出会ったあのタバコのシーンが一番好きかもしれない。葉ちゃんと屋敷の愛も見てみたい。笑
ちょっとわからなかっただけ
時間が遡っているのに、最初気づけなかった。
コンポラリーダンス?はコロナで真っ先に自粛。そして長髪?
やはり最後は女が幸せになって、男はクヨクヨ、ダラダラ。
なんかカップルのイチャつきを見せられた感が強かった。
高円寺もの。
支持。
普通レベルに気丈な女なる伊藤沙莉の役、極近過去との距離感、サブカル配合度合い、の絶妙。
高円寺にはまだ夜が在るとして、闇に唐突に少し不気味だが人格在り気なNY屋敷を置く正しさ。
これら全てがベタ付かない加減表出に貢献。
凡作続く高円寺もので唯一成功。
ちょっと思い出すくらいの人生が良い
予備知識ほぼゼロで鑑賞。
時間の遡り方がはっきり認識できなくて最初の方は少し頭を使ったが、思考が整理できてからは作品に入り込むことができ、上映時間も含め好印象の作品になった。
とても印象に残ったのは別れのシーンとなるタクシーの車内での二人の会話。
池松壮亮の「ちゃんと自分の中で結論をつけてからその先どうしようか考えたかった」的な返事に対し伊藤沙莉さんが放つ「それは相手の事を大事にしたいと感がえている自分が大事なだけ」的な言葉に自分自身を振り返り心打たれました。
見終えた後に一緒に鑑賞したパートナーにその話をしたところ、女性として非常にわかる台詞だけれど、言ってはならない一言だったかな、との反応でした。
互いに真実、されど言ったこと・言わなかったことが引き起こす継続や別れの分岐点になることがあるのだなあと考えさせられました。
とは言え長い人生、題名にもあるように少し時間が過ぎてから「ちょっと思い出した」程度の記憶になっていて今の暮らしが幸せと感じられることが一番かもと思いました。
カップルで見て感想を語り合うのにオススメだと思います。
ちょっとの先に
31 本目。
有休消化の4連、いや木曜日、雪で施工中止で休みだから5連休。
遡って見えてくる景色に、ホッコリしたり、年のせいか涙腺までもで。
チケ買う時に作品名思いだせず、車運転してたからと、ドライブマイカーを押しそうに。
映像終わりの最後にタイトル出てきて、納得。
役者として、いいキャリアを重ねてきた二人の作品。
構成が面白かった
元ダンサーだが、怪我で諦めて舞台の照明係をしていた照生とタクシードライバーの葉の2人を中心に、7月26日を2020年から2016年まで遡っていく構成。
2人が別れた後から始まり、出会った経緯が最終盤に出てくるなど、謎解きのようで面白かった。
池松壮亮と伊藤沙莉は上手いなぁって思った。
2人以外では河合優実がスタイル抜群で美しくて良かった。
久方ぶりの映画。良い時間でした。
50代夫婦で鑑賞しました。エンドロールの中で、夫にも私にもそれぞれの胸に去来した“ちょっと思い出しただけ”がありました。大事な人だからこそ、本当の気持ちを伝えないといけないという事をさり気なく伝えています。主演のお二方、本当に素晴らしかったです。あの役は、伊藤沙莉さんでないと出来ない役だなと思いました。思い出した瞬間の照夫の表情に、すべてが語られている感じがしました。バレンタインデー直前の公開だったのも良かったですね。久方ぶりの映画。良い時間でした。ありがとう。
恋愛映画のような恋〜をしてみませんか
ロマンチックなデートシーン、二人の間で交わされる親密な会話、観ているこちら側が思わずニンマリしてしまう程に、恋に落ちた二人の姿が微笑ましい。
キラキラした瞳の池松壮亮さん(ダンサーを目指した照生)、子猫のように愛くるしい伊藤沙莉さん(タクシー運転手の葉)の魅力に溢れた作品。
居酒屋の外で「オバハン」・「ショーワ」とツッコミを入れながら話しかけてくる男性に、葉が本音でサラリと言葉を返すシーン、三人組のサラリーマン( 渋川清彦さん、いい味出されていました。)と葉との軽妙なやり取り、いいスパイスになっていました。
切なく胸を焦がした恋を、ふと思い出させる、そんな素敵な作品でした。
二十代の皆さん、恋愛映画のような恋をしてみませんか?
映画館での鑑賞
トキメキへの時間旅行
別れてしまった二人が、ある邂逅をきっかけに出会った頃までの記憶を遡っていく。このフォーマットは時間軸がトキメキの方向に向かっていくため、互いに重荷となってしまった愛情のコリが徐々にほぐれていく。照生と葉が、自然な磁力で惹かれ合い始めるあの場所にたどり着くと、不思議な気分が湧き上がってくる。
自分のとっておきの思い出が、照生と葉の時間旅行にシンクロするかのごとく蘇ってきて、二人のラブストーリーと自分のラブストーリーがオーバーラップする。それは、現実とかけ離れたキラキラとした恋物語ではなく、等身大のラブストーリーを個性豊かな俳優陣が彩っているからではないかと思う。
タクシーという空間は、乗客は気が緩むこともあって、素の自分をさらけ出してしまう。その空間に伊藤沙莉がとてもフィットする。独特にハスキーな低い声での会話劇は、飽きることなく見ていられる。
國村隼、永瀬正敏、成田凌など主演級を演じる俳優達が脇を固めているが、自然体で楽しそうに演じている。脚本オリジンのキャスティングで実力が伴った演者が集結した作品は、見ていて気持ちがよい。こういう作品をもっと見たいね。
バランス
ちょっと悲しくてちょっと懐かしくて、現在もそれなりに幸せで嘆くこともないんだろうけど、近くによれば思い出の場所ものぞいてしまうし記念日にはふとケーキなど買ってしまう。やっぱり輝いていた記憶。最近すこし昔を思い出す話が幾つか続くけど、これはこれで良い映画だと思った。凝った構成には要らぬ頭も使ってしまったケド。初対面の夜のアーケードなど幾つか挟まれた長回しもはまっていた。成田凌のシーンは笑えた。河合優実も自然に可愛くて良かった。ニューヨーク屋敷は嫌味がなくて後味が良い。
主役陣、池松壮亮は大人になった。超シリアスな本郷猛に期待。伊藤沙莉は同級生役、変わった友人役からいつのまにか堂々とした主役になり、今作でもますます可愛くなっている。良い声が劇中でも褒められて良い気持ち。
永瀬さんだけ進んでる
タクシードライバーをする葉と舞台の照明のスタッフをする照生2人の恋を徐々に遡りながら描いていく話。
ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』から尾崎世界観が「ナイト・オン・ザ・プラネット」の曲を作って、さらにその曲から今作が生まれてるので至る所にジャームッシュ要素がちりばめられてて良かった!
まず、葉のタクシーに乗ってくるお客さん達は『ナイト・オン・ザ・プラネット』にも出てくるお客さんを明らかにモチーフにしてる人が沢山いて、酔っ払い3人のおじちゃん達はヘルシンキとパリ(酔っ払いが運転手に怒られる)のミックスだと思うし、明らかにロスのウィノナ・ライダーとジーナ・ロランズな伊藤沙莉と高岡早紀。
告白する時に背中を押してくれるタクシー運転手のおじちゃん、タクシー運転手の葉が運転せずに乗ってるというシュチュエーションと、やたらゆっくりな運転とあの間の抜けたような雰囲気は絶対ニューヨークの移民のタクシー運転手オマージュ。葉と照生だけじゃなくて、タクシーに乗り込んでくる色んな人との絡みもちゃんと描いてくれてたの良かった。
あとは、基本的には同じ日照生の誕生日を1年ずつ遡っていく話だけど、公園のベンチで妻を待ってる永瀬正敏さんだけは時間が進んでいるようにも見える(ずっと奥さんを待ってて、やっと会えたっていう話に見える)仕掛けが私はすごく好きだった。この時間を超越している感じってジム・ジャームッシュっぽいなと思った。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』も同時刻に世界各地で起きていることを描きながらも、陽が沈む時に始まり陽が昇るところで終わってちゃんと時間は進んでる。この映画も過去の同時刻を描いて、毎回家を出る様子しか描かれなかった照生が最後にはちゃんと家に戻ってくる。昔の恋を回顧するというエモにひっぱられそうになるけど、この不思議な時間の旅の雰囲気が良い。
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