「良い恋とは」ちょっと思い出しただけ のこさんの映画レビュー(感想・評価)
良い恋とは
「言葉が通じるからって心が伝わるわけじゃないし、言わなくても伝わることってあるだろうから」
「言わなきゃ伝わらないよ」
この短い会話が、全てを物語っている。
相手を心底から大事に想うからこそ半端なコミュニケーションを避けたい照生と、むしろどんな時にもコミュニケーションをとることによって信頼関係を確認したい葉。運命のように始まった恋は、二人の間のすれ違いが重なることで摩耗していく。喧嘩別れのように迎えた最後、葉は照生が引き留めてくれることを心のどこかで期待する。しかし照生は追いかけない。しかしそれは未練がなかったからではなく、逆説的ではあるが葉のことを想っていたから、つまり、葉をこれ以上苦しめたくなかったからではないからだろうか。
『花束みたいな恋をした』に引き続き、観客としては心が抉られるというか恋愛への希望が絶たれるような気分にもなってしまう映画。運命のように思われる恋の相手とは、一生一緒にはいられないものなのかもしれない。好きだからこそ。相手の心の動きをいちいち敏感に読み取ってしまうとか、それによって自分の気分まで左右されてしまうとか、自分の人生の照準を相手に合わせてしまうとか、相手に対して中途半端な機嫌取りができないとか。逆に、あまり執着のない相手との方が、のらりくらりと長続きする付き合いを築けるのかもしれない。
だからと言って、終わる恋には価値がないというのも暴論だろう。相手と共有した生の時間はそれぞれの人間の中に何かの糧となって生き続けるはずだし、なんにせよふとしたときに「ちょっと思い出」すことのできるキラキラした宝石箱のような思い出があるというのは、とても幸せなことではないだろうか。