「ちょっと思いだしただけだから…」ちょっと思い出しただけ コバさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと思いだしただけだから…
一口で言うと、「逆再生!花束みたいな恋をした」みたいなことになるんでしょうか?
長い年月のバラバラな一場面を切って張ってつなぐことで、一方向のテーマが浮かび上がってくる。兼ねてから映画で使われる物語の編集技法です。この技法で印象的だったのはダニー・ボイル版の「スティーブ・ジョブズ」。あの作品では、ジョブズが新作発表をする日だけを年代ごとに切り取り、それぞれの時期のジョブズと周囲との関わりを見せることで、ジョブズという人物を描いていました。
本作の面白い点は、誕生日という1日を切り取り、更に時系列を逆にして遡っていくというところです。
誕生日という定点を観測することで、ルーティンや環境の変化が分かりやすくなっているということに加え、時系列が逆になっているため、遡るたびに、「あー、そういうことか」と伏線回収の連続のような作りになっており、観ていて飽きません。
また、時系列が逆になっていることで、進めば進むほど二人の関係が愛おしく切ないものに感じてしまいます。これは逆再生効果が抜群に効いてますね。エターナルサンシャインを彷彿としました。
二人が出会う日は、まだ照生が住んでいないアパートの中から始まり、そのアパートの住人が公園のベンチに座る男(永瀬正敏)に挨拶をする。
この一連の流れに、この作品の秀逸さを観たように感じました。映画の主役はもちろん葉と照生ですが、二人が出会う前から世界は当たり前のように存在している。そうした世界と二人が繋がって、二人も、世界も変化していく。
僕らはみんな関係しあっているんだな、過去から現在までの全てが僕自身なんだな、、と。なんだかありがたい気持ちに包まれました。
ラスト、葉は現在の姿で照生と踊る幻想を振り切り、繰り返される7月26日を抜け出し、タクシーを走らせ、明日(家族と住む家)へと向かっていきます。
過去を振り返えって、愛しくて切なく堪らない気持ちに後ろ髪を引かれつつも、「いや、ちょっと思い出しただけだから!」と強がり半分に前を向く。こんな経験ってあるなぁ、と深い共感を呼びます。
照生に関しては、ステージでダンスを踊ってみたりと、まだ過去への未練は強いようです。長瀬さんに関しては「その日」に留まることを選んだようで、過去との向き合い方は人それぞれなんだな、、と。
鑑賞後の余韻がたまらない。素敵な映画でした。