「観客へ傷跡を残していく」さがす nazionaleさんの映画レビュー(感想・評価)
観客へ傷跡を残していく
父はなぜ消えたのか?
という文言が書かれているが、根本的にはそこが一番重要な部分ではない気がしている。
あくまでもそれは物語の縦軸であり奥行きを生み出しているのは人の生死に対しての価値観。
他者の生きてほしいという思いと当人の死んでしまいたいという思い、何を尊重するべきなのか、それらの行いに付きまとう罪、そのメッセージこそ映画のテーマであり最も感じとるべき点なのかなと思った。
正直なぜ消えたのか?何があったのかという部分に関しては物語が進むにつれ明らかになっていくが、細かく詰められているという程ではなくまとまってはいるものの、そこ自体だけでいえばもっと見事でもっとカタルシスのある作品は少なくない。
ただこの作品に深みをもたらしているのは演者の技量は勿論のこと、我々受け手に対して行間でものを伝えるような丁寧なディレクションにあると思う。言葉だけでなく画面の中の描写で表現するようなシーンも多く、感受性へ訴えかけるような、観衆それぞれに解釈を委ね投げかけるような描き方にこそ特異性があるように感じた。
派手さこそ無いし謎が紐解かれていく気持ちよさがあるとも思わない。ただ見終わった後にまで記憶にこびりつく様な作品性を備えた映画だと思う。
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