劇場公開日 2022年1月21日

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「ありきたりの復讐活劇に見せかけ、良い意味で予想を裏切る」ライダーズ・オブ・ジャスティス 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ありきたりの復讐活劇に見せかけ、良い意味で予想を裏切る

2022年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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マッツ・ミケルセンが演じるめっぽう強い軍人が、妻を殺され復讐に立ち上がり、犯罪組織の悪人たちをばったばったとやっつけていく……そんな話なら、まあありきたりだ。だがそうした先入観は、途中から「あれれ?」と驚きとともに裏切られることになる。

あちこちに皮肉たっぷりのユーモアが効いている。題名からしてそう。殺人事件の重要証人を殺すために実行したとされる列車事故を仕組んだ犯罪組織の名称が「ライダーズ・オブ・ジャスティス」(正義のバイク乗りたち?)。そしてストーリー上も、犯罪組織そのものの存在感や凶悪さはメインではなく(オートバイの活躍もないし)、あくまでもミケルセンたちにやっつけられる“切られ役”程度の扱いにすぎない。それがなぜ題名に?

物語をユニークなものにしているのは、列車事故で生き残った数学者オットーの存在だろう。統計や確率を専門とする彼は、観察力も優れていて、事故の直前に降りた不審な乗客のことも覚えていた。友人の数学者レナートや顔認識技術に長けたハッカーのエメンタールと協力して、証人が死んだのは偶然ではなくライダーズ・オブ・ジャスティスの仕業だと結論づけ、妻を亡くしたマークス(ミケルセン)にそのことを伝えるのだが…。

マークスの悲壮な復讐を、オットーら3人のオタク組がコミックリリーフ的に緩和する効果は確かにある。だがそれだけではない。オットーが口にする確率や必然、偶然や運命といった言葉が、実は列車事故だけではなく、映画全体の筋に関わっているのだと、冒頭とラストに配置された自転車をめぐるエピソードで示される。

言われてみれば確かに、たいていの大事故も、人的な過失や機械の故障など、確率的にはめったに起こらない出来事の連なりによって発生してしまうものだろう。日々の報道で見聞きする悲劇的な事故の背景にも、どんな偶然の連なりがあったのだろうかと、本作の鑑賞後にはきっと想像してしまうはず。

復讐活劇のようで、ブラックコメディ。喜劇のようで、哲学や運命論に通じる示唆に富んでいる。

高森 郁哉