「アカデミー賞発表直後に観るのに相応しい?」コンペティション ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
アカデミー賞発表直後に観るのに相応しい?
話の筋自体は簡単なのだが、ペネロペ・クルス演じる監督ローラのやることが何かとシュール過ぎて観る人を選ぶ作品かもしれない。爆笑を誘うわけでもない、途中どこに向かっているのかわからなくなる。特に前半は振り切れ具合も中途半端なため、正直眠くなった。
でも、バンデラス&マルティネスがラップ巻きにされるあたりから、本作が言いたいことが如実に見えてくる。それよりもっと前から皮肉の効いた設定は出ているのだが、やはり有名どころの映画賞のトロフィーが粉砕機にかけられると観ているこちらも目が覚める。このシーンをペネロペ(カンヌ、アカデミー賞、ベネチア国際映画祭で受賞歴あり)、バンデラス(カンヌで受賞)、マルティネス(ベネチア国際映画祭で受賞)がやっているのだからメタ風味もあって面白い。
トロフィーの中にオスカー像はなかったが、さすがに遠慮したのだろうか?
受賞したから絶対的に名作かと言うとそうではないし、受賞の有無が俳優の良し悪しを測る唯一の物差しではない。センスを賞賛され祭りあげられている監督のこだわりは、一歩引いて見れば時に馬鹿らしく見えたり滑稽だったりもする。
さらに印象的だったのは、終盤の会見でローラが口にする「イデオロギーありきの映画評価」への批判とも取れる台詞だ。
近年賞レースで高評価を得る作品は、必ずといっていいほどポリコレ設定という装具を纏っている。それらが駄作とは言わない。一定のクオリティを満たしたものが候補に上がってくることは否定しないが、「マイノリティを描いたかどうか」という基準に寄り掛かり過ぎていると思うことも、正直個人的にはある。
そんな私のモヤモヤをローラが、トロフィーを粉砕しイデオロギー偏重の視点を掃いて捨てることで代弁してくれた気がした。
また、ローラはこうも言う。「人は理解できるものを好み、理解できないものを嫌う。大事なことの多くは理解できないものにある」
難解に感じる作品でも、「わかりづらい、だから嫌い、わかりにくいものは駄作」で放り出すのでは自分が損するだけだ。(ただ私自身は、自分が理解した〈つもりになった〉映画に対し違う見方をする人を理解不足として見下すこともよくないと思っている)ローラの言葉は、自戒として心に響いた。
映画についての映画というと、映画って素晴らしいよね!的な作品が多い中、「本当にいい映画ってなんだろう」という問いを提示する作品は結構貴重かも。
先日のアカデミー賞の授賞内容について、どこかしら違和感や不満があった人は、本作を観ればちょっと溜飲を下げられそうだ。
また、俳優それぞれのメソッドやギャラの違いなどの小ネタもあり、この雰囲気自体は意外と生々しいものなのかな?と思う瞬間もあった。そういう細部を楽しむ作品なのだろう。
ロケ地の建物などがどれも広くておしゃれで、非日常感がある。スペインかどこかの名建築なのだろうか。私は詳しくないが、建築好きな人も楽しめるかもしれない。
レビューの「途中どこに向かってるのかわからなくなる」という表現が言い得て妙でした。
「人は自分が理解できるものを好み、理解できないものを嫌う」という言葉は、自分の映画の評価を言い当てられてるようで、(ちょっと)ドキッとしました。(私にとってはエブエブを思い出しました)