「メッセージ性に優れ、サスペンスとして秀逸だが、主人公には同情できない」あのこと tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
メッセージ性に優れ、サスペンスとして秀逸だが、主人公には同情できない
映画が始まって、スクリーンが「スタンダード」サイズであることに戸惑うが、やがて、その窮屈な画面から、主人公の置かれた八方塞がりな状況と、閉塞感や息苦しさがひしひしと感じられて、このフォーマットが高い効果を上げていることに気付く。
中絶を違法とする社会制度を声高に非難するような映画ではないが、女性が心身に被るダメージの大きさを生々しく描くことにより、その理不尽さと非人道性が肌で感じられるようになっている。
孤独や不安や焦りに苛まれながら、自らの未来を命をかけて掴み取ろうとする女性の、スリルとサスペンスの物語としても、非常に良くできている。
ただし、危険を承知していながらそのような事態を招いた主人公の行動は、軽はずみだと言わざるを得ないし、妊娠の発覚後も、避妊の必要はないと夜遊びを続けるその姿からは、やはり「自業自得」という言葉が思い浮かんでしまう。何よりも、胎児の命を奪うことに一切のためらいも罪悪感も感じていない主人公には、どうしても感情移入することができなかった。
ラストも、一応、ハッビーエンドになっているが、敢えて「学業の道も閉ざされ、何もかも失った」みたいなエンディングにした方が、主人公の置かれた過酷さや、当時の社会制度の非情さが、より際立ったのではないだろうか?
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