「ラデツキー行進曲を口笛で吹くー明るく不穏」パワー・オブ・ザ・ドッグ talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
ラデツキー行進曲を口笛で吹くー明るく不穏
台詞の一つ一つ、映像の一つ一つが磨かれていた。美しい珠のようにそれが繋がって、ある所からロープのようにねじれていく。
ホモソーシャルでミソジニーの世界の中で、インテリ=マチズモのフィルは自分と真逆の弟の所在をしょっちゅう尋ねて気にしている。他者を威嚇しつつ他者に依存するフィルは矛盾そのものだが、自分はそこから目を逸らしている。
ウサギ、ロープからだんだんと逆転が始まる。「僕には最初から犬が見えていた」。ピーターのこの言葉が想像を超えていたのはフィルの驚愕した表情からもわかる。ピーターの年齢だった頃の自分と今の自分。非合理な社会的「常識」を正しく認識し批判できる知的強さが「犬の力」に対抗できる。対抗できなかった自分と対抗できる可能性を秘めたピーター。ピーターに色々と教えてあげたい、ロープを作ってあげたい。そのための皮が消えてしまったことを知ってフィルは目に涙をいっぱい溜めて取り乱す。フィルは実は純粋で単純な男の子。一方、それを待っていたピーターは賢く粘着質の男。
Cumberbatchの俳優魂、素晴らしい。タバコを巻いて吸ってバンジョー弾いて馬に乗る姿が生まれつきのカウボーイのようで、タバコと土と汗と動物の匂いが染みついた体臭が漂ってくるようだった。一方でイニシャル刺繍入りの布を肌に這わせて目を閉じ水に浮かぶ裸のフィルは静謐で美しい。なんて複雑で難しい役柄なんだろう。役を徹底的に洞察し追求するCumberbatchにはいつも感動する。今回もすごい。
キャンピオン監督、素晴らしい。フィル役をCumberbatchにキャスティングした感覚が凄い。マッチョと程遠い役者、どちらかといえば年齢より若く見えるし、天才とか繊細な性格やフェアな役をしている俳優をこの役にしたのが凄い。彼がやるからいい。
おまけ
カウボーイのゲイの恋愛を描いた「ブロークバック・マウンテン」もこの映画も、マッチョで男らしい強いアメリカの象徴の(今は居ない)「カウボーイ」を使って価値観の変化を観客に示している。それくらいのレベルの映画は日本で作れるのかな?作って欲しい。
> 「僕には最初から犬が見えていた」。ピーターのこの言葉が想像を超えていたのはフィルの驚愕した表情からもわかる
ああ、このレビュー観て、本作観に行ったんだったなあ、と思い出しました。素敵なレビューをありがとうございました。
そういう映画、ありますよね。
重い、苦しい、でも素晴らしい作品。私、「続・Always 三丁目の夕日」がそうです。とてもいい映画なんですけど、戦争の話が辛くて苦しくて...。こんな気持ちにさせてくれるって、それだけ丁寧に描けているということですよね
乾いたモンタナの土埃とフィルの野生的な匂いを感じれる程の濃密さ、特に川のシーンは美しかったですね。
しかしカンバーバッチのこんな見事なカウボーイのハマり役を観てからは、ドクターストレンジのコスチュームが可笑しくて仕方ないです(困惑
さすがにそこそこお客様が入ってたので、もしかしてあの席のあの人❓とまで思い出すのは無理ですが、なんだか嬉しいですね。私はi列におりました。
もしかしたらお酒の神様も来てるのでは⁉️と実は思ってました🤣