劇場公開日 2023年11月17日

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「無垢な正義がみなぎる夜」モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0無垢な正義がみなぎる夜

2023年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2022年。アナ・リリー・アミールポアー監督。精神病棟で突如覚醒した女性は、なぜか目を合わせた他人の身体を操れるように。病棟を抜け出して街に出た彼女は偶然助けたストリッパーのシングルマザーと一緒に暮らすようになって、、、という話。
認知能力に問題がある主人公は、なんとか英語が理解できるレベル。病棟に戻りたくないという以外にはとくに欲望もない。他者に認められることと食べられることでほとんど満足なのだが、直観的な正義感もある。そして、その直観的な正義感は波動のように彼女の周囲に広がり、世界は因果応報で動いているかのように進んでいく。まるで5歳児の無垢な正義感が世界を満たしていくかのような爽快感がある。ストリッパーの小学生らしき息子と息が合うのも道理だ。一般的に小学生もまた無垢な正義感を抱いているのは言わずもがな。
彼女を利用して金を稼いだストリッパーが報いを受けるだけでなく、その報いを与えた被害者たちも過剰報復の報いを受ける。
政治難民の親から生まれて10年以上も統合失調症で病んでいた状態から覚醒したとき、彼女には現行法を超えた原初的な正義の観念が伴っている。彼女に触れた人々はその正義の観念に感染して常識的な善悪を超えていく。だから、当初は怪しい売人にみえる男が、逃避行を助けてくれる頼もしい仲間になるのだ。
正義とは別の筋として。逃亡しなければならない主人公がある家族と出会い、子どもと心を通わせ、親は裏切るものの子どもは一緒に逃げていこうとまでするが、最後は親を思って子どもは元に戻る、主人公もとりあえず逃げ延びる、というストーリーが残す感動も忘れ難い。今ここを逃げ出す喜び、また、それを断念するにいたる決断、という形が、物語の原型として無条件に心を揺さぶるのだろう。

文字読み