ある男のレビュー・感想・評価
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人とは
亡くなった男の素性が偽りであった事から始まる、人とは何なのかを問うヒューマンミステリー。
重いテーマの話ではあるが、物語の起承転結がはっきりとしているので観やすくなっている。
この作品では、「誰もがスタートラインは平等である」そんな綺麗事が言ってられない現実を突きつけてくる。親や環境など、生まれ持ったものが子供に与える影響は大きい。だが、それに子供は関与する事は出来ない。必死にその境遇で生き抜こうともがく。その先に今回の原と谷口がいたのではないか。
この問題は弁護士の城戸にも波及してくる。在日3世の彼は表には出さないが、苦労をしてきたのではないか。刑務所での「貴方は在日っぽくないですね。それはつまり在日っぽいということです。」という言葉。
一見何が言いたいのか分からないが、隠すのが上手いということではないかと思う。それはつまり隠さなければいけない感情があると言うことだ。
妻とのケンカの際に発した「何か落ち着く気がする」。この言葉には、彼の中に意識していない所で自分でも気付いていない感情が潜んでいる事を表している。
我々の関係を考えると双方の信頼によって、ともすれば、とても脆いシステムの上で成り立っていると感じされられる。相手が語ったエピソードがその人の人物像を作るが、それが本当かを確認するのは容易ではない。
城戸も不意に妻の浮気を知ってしまう。それまでの過程と合わさりラストの戸籍を交換したのではないかと匂わせるシーンに繋がっていく。
役者陣の演技も素晴らしい。2人の出会いの場面では、ほっこりするシーンが展開されるが、窪田正孝の時折見せる影のある表情がとても上手い。
脇を固めるのもでんでん、きたろう、柄本明ら名バイプレイヤー達。「PLAN75」での演技が記憶に新しい、河合優実も好演。
そして、眞島秀和の演技が素晴らしい。温泉旅館の跡取りとして、陽の当たるものを観る、最後まで日陰にあるものを観れない者として、演じきっていた。彼の存在で観客の立ち位置をハッキリとさせる事出来ていた。
物語が一段落したラストに観客に最後の問いかけがある。私達は誰の物語を観て、聴いていたのだろうか。
人には表と裏の顔がある
何ともシュールで不気味な絵画を捉えたオープニングショットから引き込まれる。男が鏡を見つめているのだが、そこに映るのは彼の正面ではなく後姿なのだ。これは一体何を意味しているのか?映画を観進めていくうちに、それが徐々に分かってくる。つまり、人は誰でも秘密を抱えて生きている、二つの側面を持っている…ということを暗に示しているのだろう。
大祐を名乗った”ある男”もそうであるし、彼の身元を調査する弁護士・城戸もそうであった。そして、服役中の戸籍ブローカー小宮浦、城戸の妻も然り。見えているものばかりが真実とは限らない。実は見えてない面にこそ真実がある…ということを本作を観て教わったような気がする。
物語は里枝の視点で開幕する。大祐との出会い、再婚、娘の出産、大祐の死までが軽快に綴られ、やや駆け足気味な印象を持ったが、それもそのはずで物語はここから本格化する。城戸の視点に切り替わり、大祐を名乗った”ある男”の素性を、つまり裏の顔を探るミステリーになっていくのだ。
キーマンとなるキャラクターが複数人登場して、彼らから城戸は様々な情報を得ながら”ある男”の正体に近づいていく。構成自体はオーソドックスながらよく出来ていて、グイグイと引き込まれた。
そして、この物語は城戸自身のアイデンティティを巡るドラマにもなっている点に注目したい。
実は、城戸は在日三世であり、そのことに少なからずコンプレックスを持っている。義父の差別的な発言やヘイトスピーチのニュース映像を見て、城戸は度々それを実感するが、この消せない血筋とどう折り合いをつけていくか?という、ある種社会派的なテーマが、ここからは感じられた。
在日三世の出自を隠して生きる城戸。凄惨な過去を捨てて大祐として生きた”ある男”。二人は過去から逃れようとする者同士、ある意味で似ている。やがて、城戸は”ある男”にどこかシンパシーを覚えていくが、これはごく自然のことのように思えた。
このあたりの城戸の心情変化を、説得力のある展開の中で表現した所が本作の優れている点である。その葛藤にしっかりと焦点を当てたドラマ作りに観応えが感じられた。
ただし、厳しい目で見てしまうと、幾つか演出と展開に「?」となる部分があり、少し勿体なく感じた個所もある。
本作は同名ベストセラーの映画化で、自分は原作未読なのだが、このあたりがどう処理されていたのか気になる。
例えば、最も引っかりを覚えたのは、城戸と妻の夫婦関係に関する顛末である。一連の捜査が一段落した後で語られるのだが、わざわざこれを付け足す必要があったかどうかというと疑問が残る。印象的だった映画のオープニングに呼応する形に持って行きたかったのだろう。それはよく分かるのだが、個人的には城戸の心理に余り納得できなかった。
他に、大祐の事故死のシーンは演出が淡泊なせいもあろう。どうしても不自然でわざとらしく感じてしまった。遺影の前で里枝と大祐の兄が「じゃあ誰?」と同時に呟くのも不自然に感じた。
キャスト陣は芸達者な布陣で組まれていたので安心して観ることが出来た。
安藤サクラは相変わらず巧演であるし、妻夫木聡も今回は抑制を利かせた演技で好印象。そして窪田正孝が意外に肉体派であったことに驚かされた。一方で、コメディリリーフ担当としてタレントを起用しているが、こちらはどうしても普段のイメージがあるせいで作中から浮いて見えてしまったのが残念である。
生まれた瞬間始まる呪い
窪田正孝さん演じる大祐は有名旅館の息子でありながら田舎に引っ越し林業に就き、家庭を築くところから話は展開していくが、序盤で役所の職員が放った言葉がこの映画の核心だと思う。
私もごく普通の戸籍と家族を持ち育ってきたわけだが、この映画を鑑賞しながら、私の在日の友人が在日であることに悩んでいたことをふと思い出した。以前に、その友人は誰か有名人の人生をくれれば私は絶対にうまく生きられると言っていたのだが、それは自分の境遇を脱ぎ捨て生きたいという意味だったのかな、と思う。私にはその苦しみはなんとなくピンとこないが、この映画にあることは無いことはない話だと思った。
生きることを困難にする境遇は、生まれた瞬間から永遠にまとわりつく呪いなんだろう。
背を向けて何処へ
原作は読んでいません。
◉静かな場所へ逃げる男たち
戸籍交換の仲介人(柄本明)に頼んで名前を差し替えることで、人生も変えようとする男たち。しかし、人生をやり直すと言うよりは、むしろ人生を消して、世界の片隅で生きていこうとする。犯罪者でもないのにだ。
原誠(窪田正孝)は残虐殺人犯の父を持った息子の悲哀に押し潰され、谷口大祐(仲野太賀)は旅館のうだつの上がらない次男坊の鬱屈を抱えて、それぞれに逃げ出して静かな場所を目指した。
そうした男を演じた窪田正孝は良かったと思います。ボクサー役が上手かったかどうかは別にして、トレーニング中も試合中も、闘いとは離れた静謐感を漂わせていた。つまり寂しい男を表象していた。
◉薄らいでいく曇天
それでも谷口大祐は恋人とのわだかまりを解き、原誠は最後は不慮の事故で命を落としたとは言え、わずかな歳月、幸せな家庭に恵まれた。
弁護士の調査が進捗して、二人の男の辿った道筋が明らかになっていく。谷口はおびき出されるかっこうで恋人と再会できて、心の灰色の空も晴れただろう。仲野太賀の優しく頼りない感じが良かった。
原の曇り空も、里枝(安藤サクラ)と子どもとの暮らしの中で、ほとんど消えてしまったはずだ。微妙ではあるけれど、ハッピーエンド。
親にしてもらいたかったことを、自分にしてくれたと呟いた息子が生意気ながら、いじらしい。
◉在日コリアン弁護士の憂鬱
すると、この作品の背景に曇天のように垂れ込めていた(と強く感じた)憂鬱は、誰のものだったのかと言う問いかけの答えは……。やはり、弁護士城戸(妻夫木聡)のものですね。
戸籍交換の仲介人に在日コリアンの生い立ちを見抜かれ(ここはかなり唐突過ぎて不自然だけど、強引に納得させる柄本明の圧はさすが)、妻の親との口にできない断層を感じ、妻との思いや考えのズレに悩む。遂には妻の不倫の兆しすら現れる。
社会的には陽の当たる場所に居て、弁護士としての実績も優れているのに、城戸は不安に苛まれる。俺の落ち着ける居場所は何処にもないじゃないか?
そこにありそうなのに手に入らないものに対する叫び声を、必死で呑み込もうと堪える妻夫木の端正な顔。
ただ、在日の外国籍の人たちの拠り所の無さや怨み辛みは、もっと執拗に描かれても良かった。そのため、この作品の基本色であったはずの灰色の重苦しさが、もう一つ胸を押してこなかった感じです。
もう一度、窪田正孝。画材を幾度も買いに訪れて、安藤サクラにぼそっと、友達になってくれますか?
今更、中学生か! と突っ込みながら、優しさが故に脆弱であることも、時には悪くないのかも知れないなどと、頷いておりました。
背負うもの
豪華なキャストの作品という事で期待値を上げての鑑賞 👀
窪田正孝さんの熱演、眞島秀和さん、妻夫木聡さん、安藤サクラさんの安定の演技、真木よう子さんの艶やかな美しさ…見応えが有りました。
文具店を営む実家に戻り、自身の母親と同居する結婚経験のある子供を持つ女性が、再婚相手の家族と一度も会わずに籍を入れた事に違和感を覚えました。
ラストは、バーの中だけのなりすまし、と理解したのですが、どうなのでしょう。
映画館での鑑賞
面白いけど、よくわからない
ちゃんと解決してるんだけど…。
言いたいことは何となく伝わったんだけど、それだと最後のバーのシーンがいらない感じがする。
謎解きも最初と最後がわかった後に間がわかるのが何となく謎解き要素が薄い。
全体的にスッキリしない。
とても面白いミステリー映画でした。 息子を亡くして日々意気消沈して...
とても面白いミステリー映画でした。
息子を亡くして日々意気消沈して過ごしていた安藤サクラさん演じる里枝は故郷の文具店で働いていたが、そこにある男が画材道具を買いに通うようになり、二人は徐々に仲良くなっていきやがて結婚するが。その男は群馬県の伊香保温泉の次男坊という経歴と妻の里枝には話していたが、男が仕事中に不運な事故で亡くなってしまったことをきっかけに、その男が実は違う経歴だったことがわかり、その調査をしていくことになり。
とても良くできたストーリーで、最後まではらはらと楽しむことができました。
映画の終盤の里枝の「全部分かってから言うのもなんですが、本当はどんななんだって、どうでもよかったんだなとわかりました。だって、私が彼と過ごした二年半の日々は事実だったんだから」と言うセリフはとてもよかったなと思いました。
妻夫木聡さん演じる弁護士の城戸も自身の出自からこの事件に自身を重ねたり、また男自身の壮絶な人生が描かれていたり、人生についてしっかりと向き合いさせてくれる内容でした。よかったです。
ミステリーと差別と家族愛
短時間でとても丁寧にまとめられていました。
安藤サクラ演じる家族パート
小籔が出てくるミステリーパート
妻夫木の家族と差別パート
この要素をまとめるのは大変だったろうなと思います。
安藤サクラが再び登場したとき、「あ、そう言えば出てたんだ」と思ったくらい、それぞれのパートが濃厚でしたね。
冒頭の安藤サクラの涙のシーン、そして柄本の演技は圧巻でした。本当に「食う」という表現が合うと思います。めちゃくちゃ印象に残りました。窪田さん、でんでん、皆さん演技素晴らしかったです。妻夫木さんは下手ではないけど凄い上手くもないので、小籔出てなかったらヤバかったですね。
妻夫木演じる主人公が、事件を通して自分自身の中にある在日差別への感情や、家族との距離感に気付いていって、最後には自らも過去を全て捨ててしまうという決断に至るというのが、見ていて本当に自然と理解出来ました。苦しかったんだろうなあ、と。
いくつかちょっと無理があるところもありました。特に親子で同じような絵を描くというのは、ありえないかなと。死刑囚の心理状態から来る表現と、その親を憎む子供の絵が一致するのは変ですね。
ミステリーとしての完成度は低めだと思うので、いっそのこともっと簡単に判明させても良かった気がしました。欲張り過ぎかなと。
伊香保、宮崎、東京と舞台を移しながら、象徴的なバー、刑務所、桜と、見ていて飽きさせなかったです。ところで刑務所はブローカーの収監にしては厳重でしたね。柄本なので超凶悪犯に見えてしまうので不思議です。
音楽も良かったですね。映画らしい映画でした。石川監督の地力を感じました。
今後も注目したいと思います。
後を引く,考えさせられる映画
解りやすそうで難しく,後を引く映画でした.
登場人物全ての設定と演技が非常に良かった.小藪さん演じる同僚弁護士は,映画全体が重苦しくなるのを防ぐ重要な役なのかと思いました.
城戸弁護士は,刑務所で接見した柄本明さん演じる詐欺師に,「あんた韓国人やろ.顔をみたら分かるわ」(セリフを正確に覚えていないので,こんな感じのこと)と,いきなり言われてしまう.大祐探しとは無関係のことなのだが,詐欺師はそれに執拗にこだわった.これまで,妻の家族にも在日3世であることを話題にされたりしていたが,やはりこの詐欺師の言葉が,城戸弁護士の心の歯車をカチャッと狂わせるきっかけになったのかなと思いました.
ここでの柄本明さんの演技はすごいと思います.
最後のスナックでの会話シーンの解釈が難しい.
自分が植えた木は,生きているうちには収穫できない.子供の世代に託していく.
これが意味するのは,他の誰かに入れ替ることの功罪は,次の世代で判断されるのか.
大祐が,自分が切った木によって命を落とすことの理由に絡むのかなと思います.
人は変わることができるという言葉が,なんとも軽く聞こえるように思いました.
他にもたくさんの名場面がありました.良い映画だと思います.
九州で暮らすシングルマザーの谷口里枝(安藤サクラ)。 夫と暮らした...
九州で暮らすシングルマザーの谷口里枝(安藤サクラ)。
夫と暮らした横浜から離婚後、実家に戻り、役所勤めしながら実家の文具店を手伝っていた。
ある日、文具店にスケッチブックを買いに来た青年(窪田正孝)がいた。
どことなく暗い感じで、どこか他所からこの町に来たらしく、いまは山仕事の見習いのようなことをしている。
暗い感じだったが、無口で誠実なところがあり、しばらくして彼は里枝に自分が描いた絵を見せ、谷口大祐と名乗った。
絵には、神社で遊ぶ里枝の一人息子が他の子どもたちと一緒に描かれており、それがきっかけで二人は交際するようになり、やがて結婚、ふたりの間にもうひとり娘を授かることになる。
が、不幸にして、彼は伐採作業の際に事故を起こして、倒木の下敷きとなって死亡してしまう。
一年後、一周忌の後、彼が生家と言っていた北関東の温泉宿に連絡をし、彼の兄という人物・谷口恭一(眞島秀和)が訪ねてくるが、仏壇の写真をみた恭一は「写真の人物は弟とは似ても似つかない・・・」という
といったところから始まる物語で、その後、里枝が離婚の際に世話になった弁護士・城戸章良(妻夫木聡)に連絡し、大祐と名乗っていた男性の素性を調査することになる。
ミステリの物語としては、宮部みゆき『火車』などで描かれた戸籍交換の物語で目新しさはありません。
そう、目新しさはないんです。
谷口大祐と名乗っていた人物の素性が殺人犯の息子というのもテレビの2時間ドラマで幾度となく登場した設定で、新しくはありません。
だからといって、この映画がつまらないかというとそうではなく、常に観ている側を不安に陥れてくるあたりが興味深く、その原因がどこにあるのかを考えながら観ました。
観ている側を不安にする要素は、ずばり「アイデンティに対する不安」「自己存在に対する不安」です。
自己存在に対する不安といっても、いわゆる自己肯定感の乏しさ、自己に対する承認欲求への不満とかというものではありません。
アイデンティを、理系的に分析したというか、そういうところです。
少々七面倒くさい話になりますが、大学時代にスイスの学者ソシュールの記号論を学びました。
言語や記号はふたつに分解でき、
ひとつは、言語は音声、記号ならばその形象(シニフィアンといいます)
もうひとつが、その音声・形象が指すイメージ・概念、ないしその意味内容・本質(シニフィエといいます)
です。
記号論を推し進めると、いわゆる音声・マークなど記号のほかの物事を、シニフィアンとシニフィエに分解することができる、というものです。
(かなり昔に習ったことなので、現在は変化しているかもしれませんが)
さて、自己のアイデンティというものも、シニフィアンとシニフィエに分解が可能で、
名前はシニフィアンで、自己の本質的存在はシニフィエと言えます。
窪田正孝が演じた男の最終的なシニフィアンは谷口大祐で、
谷口大祐には「老舗温泉宿の次男坊」というプロパティ(属性、付属的性質)があります。
しかしそれは男のシニフィエではありません。
シニフィエは、殺人犯の息子というプロパティに苦悩して生きてきた「暗いけれど誠実な男性」です。
しかし、多くのひとびとは殺人犯の息子というプロパティを、男の本質だと見誤ってしまう・・・
そして、谷口大祐の過去を調査するうちに、自身のアイデンティに不安を感じる男が、弁護士の城戸章良。
彼のプロパティは、人権派弁護士のほかに、在日韓国人三世というものがあります。
(柄本明演じる戸籍ブローカーの言では「男前の」というのもありますが)
その城戸は、調査の過程で自身のアイデンティのシニフィエを見失っていきます。
(「暗くはないが明るくもない、が誠実な男」といったところでしょうか)
ここが怖いところです。
表層と属性に惑わされて、自己の本質を見失う・・・
何々社の誰それさん、どこどこのパートさん、誰それのおとうさん・おかあさん、
何々で活躍したひと、何々でしくじったひと・・・
それらは本質じゃない。
じゃないけれど、それらが持つ意味は社会的に大きい。
そして、自己の本質を見失う不安が常にある。
そういう意味で、観る側を不安にさせる映画でした。
<追記>
この映画を観ている間のわたしは「映画を観ているひと」であり、それ以外の何者でもありませんでした。
ミステリーより人権とかの印象
締めが自分の好みじゃなかった分▲。
原君の思い的なのもう少し大切にして欲しかった。
丁寧に描写してるんだろうけど冗長にも感じた。
戸籍レンダリングは面白かったし、柄本父はやっぱ迫力ある。
社会問題を巧みに取り入れた上質のミステリー
谷口里枝(安藤サクラ)の再婚相手、大祐(窪田正孝)が事故で亡くなり、疎遠だった大祐の兄に連絡して葬儀に来てもらうと、亡くなった大祐は本当の大祐ではなかった。そんなミステリアスな出来事を、弁護士の城戸(妻夫木聡)が解き明かしていくミステリーでした。
非常に評価できるのは、近頃国会などでも話題になることが多い「ヘイト」の問題や、自分が自分であることを証明することの難しさなど、「謎解き」というミステリーの娯楽要素に留まることなく、現実の社会問題を物語に巧みに取り入れていたこと。流石は芥川賞作家である平野啓一郎原作と思わせる展開でした。
役者陣では、刑務所に服役している詐欺師役を演じた柄本明が、相変わらず不気味な笑みを浮かべつつ物語の鍵となることをしゃべっていたのが良かったです。
また物語的にも、亡くなった夫が誰であるかが解明されて一定の平衡状態を取り戻した里枝や、本当の大祐とは裏腹に、城戸が家族の崩壊危機に陥ってしまうラストは、人生の浮き沈みを象徴しているようで、印象的なものでした。
物語よし、背景もよし、演技もよしということで、評価は★4としたいと思います。
過去が消せないなら、わからなくなるまで上から書くんだ。
原作既読。
映画は、小説にもでてきた、ルネマグリットの「複製禁止」という絵のショットから始まる。
戸籍ブローカーの仲介を経て、他人の人生を生きている男、他人に自分の人生を売った男の話。小説を先に読んでいるので、ああ、この男が殺人犯の息子として生きてきて、今、別の人生を生きているんだなという視点で見つめていた。何も知らずに観ていたら感じることのない疼きが心に刺さってくる。それは窪田正孝の物静かな佇まいがそんな感情を起こさせるのだろう。そして、最後に息子悠人がいう「父親が優しかった理由」がすでに頭にあるせいでもある。誰かになりすますことで、原誠は幸せだったのだろうと思う。(この子役、とてもよかった)
弁護士城戸役の妻夫木聡の表情が絶妙だった。谷口大祐の素性を探すことは、どこか在日である自分の本性をほじくり返す行為にも感じていたのでないだろうか。そのくせ、自分に害が及ばないのだから、傷つくこともない。だけど、そのかわり彼の中で何かが変わってしまった。あの、皮肉そうな笑顔もそうだし、どうも善意だけの行動には思えないんだよな。たぶん彼自身、変身願望があったのだろう。在日を隠したい気持ちが在日であることを晒しだしてしまう。小見浦の言う「先生は在日ぼくない在日ですね。でもそれは在日ってことなんですよ。」が的を得ているように。
正直、小説は設定が面白いわりにはなんかスカしていて満足度は低かった。それは作者の文章のせいであり、インテリ臭いマウントをとられている不快感のせいでもあった。だけど、映画は上質。余計な横道にそれず、核心へとずいずいと誘っていく。とてもソリッドな展開だった。ラストも、小説の幸福な着地点とは異なり、どこか城戸自身の変化や問題を抱えて終わる。小説にも城戸が試みになりすましてみる場面が、調査の途中の過程として登場するが、この映画では最後のここで出てくる。それは、なりすますことに妙な悦楽を知ってしまったような城戸の心の闇がちらついて見えた。(ただ、はっきりとなりすましたとは断言できない。そういう人がいた、ともとれる会話だったが。)
そしてまたルネマグリットの「複製禁止」が登場する。この鏡を覗いているのは誰なのかという想像の迷路に迷い込まれていく。ちなみにこれ、鏡の下に置いてある本はちゃんと反転しているのに、男はそうではない。そもそも鏡を向いているのに、向かい合っていないのだ。だからどこか感覚が狂わされる。まるで鏡張りの小部屋に閉じ込められているようだ。城戸も、こうして鏡に向かい合っている気分なのだろうか。その見ている自分は"どの自分"なのだろうか。ああどんどん迷い込んでいく。
そうそう、最後に初対面の男に城戸は自分の名を、何と答えたのだろうね。そりゃ僕は間違いなく、こう答えたと思う、・・・・・(ブチッ)。
↑ ↑ ↑
なんだよ!って思いますね。一応、タニグチがセオリーのようですが、ハラマコトだとざわつきは半端ないかも。
彼を【ある男】や【X】と呼びたくない
1度しか観てないので台詞がうろ覚えなんだけど
安藤サクラさんが演じられた里枝さんが後半に言った「過ごした時間は事実ですから」がほんとそうだなと。
たまたま死刑囚の子に産まれてしまっただけで、その男性には何も罪がないのに、遺伝で似てきてしまう顔に絶望とも言える苦しさや生きづらさを感じていた中で、やっと普通の暮らしを手にいれたのに
ただただその1人の男性のことを考えると胸が苦しくなった。
戸籍のことは不勉強でわからないのだが、里枝さんの旧姓としてお墓に入れられることは可能なのだろうか…。
そして物語が終わりを迎えたのに、ラストシーンに向かうランチシーンからは必要なのかと思ってしまった。これがあるので物語が終わりを迎えない気がして…きっと誰しも別人になりたいときはあるを訴えたかったのかと私は思ったのだが…少しそこが気になった。
ただそれを含めて映画として面白かったので、もう一度観たいそう思う映画だった。
本当か嘘か?正しいか正しくないか? 過去がどうあれ未来がどうあれ‥...
本当か嘘か?正しいか正しくないか? 過去がどうあれ未来がどうあれ‥‥ しかし知りたくなる、その人のことを。 人は皆、肩書きで人を見ている。実際、私もそうである。それによって振り回されている。しかし意外とその人とあった事実だけを見ていくとその人が見えたりするものだ。たぶん知らんけど!
自分てなんだ?
「自分」という物を消し去らなければ息苦しくて生きていけない人間がいる。「自分」を取り戻すために「自分」を捨てるというこの理不尽。
自分を捨てなくても幸せでいられる人たちもいる。その人たちには分からない生きる辛さが見てる側に刺さる。アイデンティティのぐらつきに初めて直面してしまう息子(僕の名前はどうなるの?という問いかけが秀逸)
過去を乗り越えたと思いこんでた城戸弁護士(妻夫木聡)が、辛い人たちと向き合うことで押し殺した自分に気づいてしまう。理解から距離が縮まったと思ったのに、本当の自分を隠すことに走る妻に気づき、新たな仮面をかぶってみる城戸。彼の今後はどうなるのか…。
名前なんて戸籍なんて強固なものではなく取り替え可能とあざ笑う囚人(柄本明)の関西弁がいかにも怪しいイントネーションなのが、そういったゆらぎを表しているようで興味深かった。
そして、窪田正孝の静かだけど全身で語る芝居の良さ。
安藤サクラの安定感(初っぱなの情緒不安定な泣き顔に引き込まれた)。
邦画は割と台詞聞き取りにくかったりするけど、この映画はとても聞きやすかったし、画面の暗さもただ暗いのではなく場面にあっててとてもよかった。
でも、なんかちょっと長かったなあ。
原作を読んでみたくなる
これは、ヘイトスピーチの問題をテーマにしているのだろうか。
だとしたら、この作品の表現力は凄いと思った。
でも、最後まで見ていると、逆にヘイトスピーチという大きな社会問題から、もっと小さな集団の中での「生き方」に対するメッセージにしているのではないかと思うようになった。
どんなに小さくても、ある集団の中に人は生きていて、それは民族や国籍という大きな集団でなくても差別や偏見があり、その中で人は大なり小なりストレスを抱えて生きていく。
その中で、人はどう生きていくべきなのか?
強烈な衝撃を受けました。
戸籍の入れ替え、、、そんなこと実際にあるのか、あったとしたら、やっぱりそれは駄目ですよ。どんな事も試練だと思って、乗り越えることこそが素晴らしい人生に繋がるのだと思うと同時に、本当に戸籍を入れ替えられるなら、どんな人と入れ替わりたいかな、、、と思ってしまう自分もいて、とても複雑な気持ちなり、また深く考えさせられる内容でした。
内容は最後がちょっと理解不能で、、、その代わりもう一度観てみたいと思わせられた、または原作を読んでみようかと。
城戸は在日であることの差別に悩み続けるも、やっとそれを乗り越えたと思ったら、奥さんとのすれ違いについに自分の人生をやり直すために「谷口」の戸籍と入れ替えてしまったのか?
また、個人的にはキャスティングが最高!!
妻夫木聡さん、安藤サクラさん、柄本明さん、真木よう子さん、でんでんさん、眞島秀和さん、などなど好きな演技派俳優さんがぞろりと!!
で、窪田正孝さんってあんな演技上手かった???(ファンの方ごめんなさいm(__)m)
迫真の演技だったと思います。
上から発言ですが、窪田さんの俳優として確立された作品といっても過言ではないくらい凄かったです。
あと、悠人演じるあの男の子、、、何者???超演技上手い!!
居場所
ここ最近の邦画は少し後回しにしていた感じがあったので、重い腰を上げて鑑賞してきました。平日の昼間は人が少なくて観客側としては大助かりです。
結構面白そう…と思ったのですが、個人的にはあまり合いませんでした。脚本家の方の作品を見ると過去にあまり好きではない作品が揃っていたのでなるほどなと思った次第です。
合わなかった理由として強いのが、差別的な要素を突然入れてきて、それらが物語に直結しているように思えなかったからです。北朝鮮だったり、在日だったり、ある男の身元探しのはずなのに突然何を言い出すんだ?とぽかんとしてしまいました。ラストの方の奥さんの不倫や、身分を偽ってみたという不思議な終わり方もスッキリしなくて今まではなんだったんだ?と思わざるを得なかったです。
役者陣はこれでもかというレベルの豪華な布陣で、少ないシーンの中でも河合優実さんの魅力ががしがし発揮されていました。窪田正孝さんの何役も演じ分けていて、しかも筋肉ムッキムキ、恐れ入りました。
役者陣は最高ですが、お話がそぐわなかったです。これもう少し削れたよな…。
鑑賞日 11/29
鑑賞時間 13:25〜15:35
座席 A-2
その人の何を知っていて、何を愛して、何が真実なのか
何年も暮らした夫が死後、まったくの別人だとわかったら?めちゃくちゃ重かった…でも安藤サクラ、窪田正孝、妻夫木聡、3人ともハマり役で上手すぎて、あっという間の2時間。過去が明らかになる様も同時進行のやりかたも丁寧でよかったし、脇を固める役者たちも皆素晴らしかった。
少しだけ出てくるような脇役まで、驚くほど豪華だったな。清野菜名、眞島秀和、仲野太賀、でんでん、きたろう、柄本明、真木よう子、河合優実…隅の隅まで笑っちゃうほど豪華で盤石の布陣だった。そりゃ見応えあるわけだわ〜
なのでほんと無駄も隙もなく緊張感を保ちながら良作に仕上がっています。
しかし最後の最後のオチはちょっとやりすぎな気もした?どうだろ、あれが面白く感じる人もいるかもですね。妻の浮気や民族的ヘイトからくるストレスで、名前変えてまで逃げる必要あるかしら?結局、帰化したものの元在日であることを否定的に捉えてたとも考えられるし…
そして最後の息子くんの「お父さんはしてもらいたかったことを…」とか「僕が話してやるよ」とかはちょっと台詞すぎて気に掛かりました。
これらの終盤での一部以外は良かったですね。
作中に出てくるこの絵、ハマスホイかルネ・マグリットっぽいなーと思って後で調べてみたらマグリットでした。絵のタイトルがまた絶妙で、「複製禁止」。粋だなあと思いました。
登場人物の気持ちになってみたら
もし自分が同じ立場だったら…どうしただろう、どう思っただろう。
そんなこと考えながら見てました。
もし、自分を変えることができたなら…私も今すぐ変わってみたいとも思いました。
で、最後のシーンは結局そういうことなんだよね?
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