ある男のレビュー・感想・評価
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鏡のなかにいる自分が心の闇を映し出していた作品
悲しい過去がある心の壊れた男性、窪田正孝
演じる大祐が、事故で亡くなったことにより
判明した事実!
安藤サクラ演じる谷口里枝と、結婚して
前妻の長男、娘の花と幸せに暮らしていた
家庭に見えました。
他人の戸籍になる偽りの人生。
成り済まし。
アイデンティティー、自分の存在証明が
問われるストーリーでした。
妻夫木聡演じる、弁護士の城戸が
調査していくうちに自分の名前と違って
いても、自分自身が家族を愛していた
揺るぎない気持ちが伝わってきました。
『また、名前が変わるの?』
里枝の息子が嫌な気持ちで母親に質問していたけれど、
大祐が里枝と結婚してからの人生が
彼のすべてだった。
そんな台詞が心に響きました。
本物の谷口も美涼に会えて良かったと思いました。
名前が違っていても、新しい自分を取り戻して
いく、家族の愛情が通じ合うように
思えたストーリーでした。
対面にいる人はだれ?
とても考えさせられた作品ですね。
名前とは何?
生まれとは何?
親とは?
しいては
自分はだれ?
と考えさせられた作品。
スローテンポではあるが、グイグイと引き込まれた。
ラストは自分としては不要だったと思うが、全体的には良いと感じました。
窪田くんが素晴らしい
愚行録と同じ監督さんだからでしょうか、
妻夫木くん、なんか、雰囲気がかぶっちゃいましたね。
というか、有名な役者さんが多すぎて、
誰が主人公?
仲野太賀さんなんて、台詞ほとんどなかったけど…
窪田正孝さん、素晴らしかったです。
眼の表情だけで違う役を演じ切るという。
ストイックな役者さんてちょっと苦手なんですが、さすがだと思いました。
妻夫木くんは、シリアスな役もコミカルな役も上手だけど、次回はマジックアワーのようなはじけたやつが観たいです。
あとは、結構小藪好き笑
内容としては、
原作平野啓一郎なので、ミステリーとして見ると期待外れ。
映像2時間では描き切れないだろうから、原作を読んでみたいですね。
ラストが素晴らしい
ラストの主人公のセリフ「僕は」
で映画が終わり画面が真っ暗になるのが非常に素晴らしいです
あのラストにこの映画の全てが詰まっています。
原作を先に読んでいたのですが、あの長い小説をよくここまで綺麗にまとめて一本の映画に仕上げたのに感激しました。
映画のラストでは小説にはない「ある絵」が画面いっぱいに登場しますが、それもまた素晴らしい…
重たいなあ… サスペンスを装った(?)社会派メッセージの強いタイプ...
重たいなあ…
サスペンスを装った(?)社会派メッセージの強いタイプの作品でした。
”ある男”が誰だったのか?
確かにここは大切なのですが、”なぜある男になったのか?”が重要な感じ。
何かに似てるな~~と思ったのですが「凶悪」ですね。
第三者が当事者と関わることにより、大きく影響を受けてしまうというプロット。
この作品をただの物語として見るか、考えさせられる”テーマ”としてみるかで評価も変わるし難しい…
何度も見たい作品では全くないのですが、1度でおもしろい!と理解できるような作品じゃないんですよな~
こどもにとっての”苗字が変わる”という出来事がいかに苦しいか、愛した男のことを本当に理解していたのか?自分の築いた人格は、結局出生には抗えないのか、犯罪者の人権は?
語るべきことは沢山あるのでしょうが、私にはまだ消化しきれない部分が多い。
サブスクに見放題出来たらもう一回見ようかな。
安物のワインにヴィンテージのラベル
小籔の一言にドキッとしてしまった
愚行論での演技も良かったけど、妻夫木聡の爽やかな笑顔にジトッとした内面が垣間見える目が良かった。サスペンスなのに終わってほしくない、まだ見ていたくなる、そんな映画でした。
より3者の深掘りを期待した
2022年劇場鑑賞92本目 秀作 67点
2022年日本アカデミー賞を各部門総なめにした作品
正直箔がある風に並べて固めて持ち上げてヨイショした感が凄いし、名誉に見合ってないと思う
役者陣の演技派揃いの具合は頷けるんだけど、んー数十年後にに振り返った時に名前だけ残って、これに席を奪われた他の名作が語り継がれないのをその当時にちゃんと足を運んで見てた人間からするとなんとも不甲斐ない
別にそこまで悪くはないけど、絶妙に響かない
こちらの骨まで震えてこないんですよね、1年通して上映のタイミングもいい時に出来たし、演技派揃えてそれっぽいポーズした題材だから恵まれましたねって感じ
日本アカデミー賞に相応しいかは置いておいて、個人的に2022年邦画ベストは川っぺりムコリッタか猫は逃げたです
名刺も戸籍も公信力はない?
本作は別人に成りすました「ある男」の正体と過去をたどる物語。
戸籍の売買により、別人に成りすまし、己に巣食う過去やトラウマからは逃れようとする男はこう思ったはずだ。「酸味」の強すぎる自身の人生を変えたい。せめてラベルや名札だけでも。ただ、鏡に映る自分の姿がそれを許さない。
「ある男」の経歴をたどる物語をとおして
「別人の人生を生きられたなら」、「人生をリセットできたら」と思う心に共感するとともに、「真」の人生だろうが、「偽」の人生だろうが、その歩み方次第なのだと感じた。
今回の真相を追う弁護士城戸にもとあるコンプレックスを抱えており、
物語ラストにまさかの展開が待っている。
ミイラ取りはミイラになったのか?
どんな男なの❓
夫と死別したヒロインが、夫がまったくの別人と判明、知り合いの弁護士とともに夫の過去を探り始める・・・結論としては夫が他人と戸籍を交換(?)していたという事ですが、夫は父が死刑囚だったため、交換した相手は家業の跡継ぎをめぐる兄との確執のため‼️日本アカデミー賞の作品賞を受賞した作品とのことで、期待してたのですが、窪田正孝と仲野太賀のキャラが戸籍を交換するくだりで、ドラマ的に深みというか説得力と、もう一捻り工夫が欲しかったです‼️なんか全然胸に迫ってきません‼️ただラスト、妻の裏切りを知った妻夫木聡の弁護士の顛末は戦慄を感じましたので、☆一つオマケです‼️
あなたは、あなた自身は、自分を名乗れますか…?
“別人ミステリー”は映画の題材でよくあるっちゃあある。
本作も話の入りとしては奇妙ながら実に興味惹かれる。
死んだ夫は別人だった。調査する内に明らかになっていく事実…。
謎が散りばめられ、少しずつ少しずつ事実に迫っていくミステリー仕立ての語りは最後まで目を離せない。
だが本作は、単なるミステリーだけに収まらない。
そこにいる人は本当にその人ですか? あなたは何者ですか? あなた自身は何者ですか?
ミステリアスで意味深で暗示めいたものを問い掛けていく。
加えて、差別や偏見、逃れたくても逃れられない自身の出生、何故別人として生きざるを得なかったのか、戸籍を巡る社会の闇、家族や夫婦の関係、幸せと不和…様々なテーマに斬り込んでいく。
エンタメ性と社会的メッセージ性と芸術性の見事な調和。
石川慶監督の一つ一つの緻密で深い演出、向井康介の巧みな脚本、キャストたちの名アンサンブル熱演。
昨年を代表する邦画の一本に偽りナシ。
ズバリ本作は、戸籍交換を題材にした作品。
ネットでちょっと検索しただけでも、戸籍交換に関する様々な項目が出てくるほど。
実際にそれがあり、実際にそれを請け負う仲介人もいる。
衝撃的でもあるが、私も戸籍で驚いた事がある。と言っても自分自身の事ではないが、
劇中で柄本明演じるかつて戸籍売買の仲介をしていた不穏な老人の台詞。“300年生きた人がいる”。
これを聞いた時、ピンときた。もう何年も前のニュースで、死亡届が出されず戸籍上生きている人がいるという。それも一人二人じゃない。把握出来ないくらい。
戸籍なんて言うと絶対的な自分の証明…と一見思う。が、実際は、どうとでも偽れる。
戸籍さえ名乗れば(偽っても)、相手はそう自分を見てくれる。
これ以上ない隠れ蓑。犯罪者にとっては。
戸籍を偽るのが全て犯罪者とは限らない。どうしても戸籍を偽らなければならない、そういった事情や人生に置かれた人も…。本当の自分を捨ててまで…。
窪田正孝演じる男がそれだ。
劇中と同じく、“X”と呼称しよう。
“X”は“谷口大祐”と名乗り、安藤サクラ演じる宮崎の片田舎町で文房具屋を営む里枝と出会い、やがて結婚。幸せな日々は4年と続かず、“X”は仕事中不慮の事故で死亡。“谷口大祐”の兄が一年後の法要に訪れるのだが、その時初めて全くの別人である事が発覚。死んだ夫は誰…? 里枝は離婚調停で世話になった弁護士・城戸に依頼。戸籍仲介人やある絵画展からようやく本物の“X”と彼の歩んできた人生に辿り着く…。
“X”の本名は“小林誠”。誠はどうしてもこの名前を捨てたかった。誠の父親は、凄惨な殺人事件を犯した犯罪者。犯罪者の息子。誠がどんなに偏見の目に晒されてきたか。
母親の旧姓で“原誠”へ。この頃誠はボクサーとなっていた。才能を開花させ、新人王も期待されていたが、何処の誰かが誠の出生を知る。逃げても逃げても、過去から逃れられない。
逃れられないのなら、別人になるしかない。そうして仲介人を通じて別人の戸籍を手に入れる。
最初は“曽根崎義彦”。そして“谷口大祐”。
“谷口大祐”としてようやく人並みの幸せを手に入れた矢先…。
“X”こと誠の人生は悲痛だ。何も自分自身に罪がある訳ではないのに、出生と名前のせいで…。
彼が車の窓ガラスに映った自分の顔を見た時、彼がボクシングを始めた理由、ロードワーク中の苦悶、“うっかり落ちた”はその苦しみ悲しみの表れ。
本作での戸籍交換は違法であろう。そもそも戸籍を交換する事自体、良し悪しは難しい所。
が、誠は戸籍を変えた事によって少なからず救われたと言えよう。ボクシングジムや林業の人たちにも好かれ、何より里枝と出会った事。里枝は前の夫との間に息子・悠人がおり、悠人も誠に懐いている。新たに娘も産まれた。
事実を全て知って、里枝たちは誠に嫌悪を抱いたか…? 否。
父親としての大祐が優しかったのは、自分が父親にそうして貰いたかったからなのか。そうであり、純粋に悠人の事が息子として好きだったから。
終盤での里枝の台詞。本当の戸籍など知る必要なかった。この町で彼と出会って、好きになって、4年にも満たないが幸せな家庭を築いた。それが全て。
この言葉に、誠の人生は報われたと言えよう。
里枝自身も離婚や亡くしたもう一人の息子の悲しみから救われたと言えよう。
あなたの目の前にいるその人は、愛した人自身なのだから。
この非常に難しい役所を、窪田正孝が素晴らしく演じ切った。
安藤サクラもいつもながらの名演、好助演。
本作は平野啓一郎によるベストセラー小説が原作。原作では微かな希望や幸せを感じさせる終わりだとか。
が、映画は違う。映画は何とも人の心の闇や意味深な含みを持たせた終わり方。
それを表すのが、妻夫木聡演じる弁護士の城戸。
城戸は人権派の弁護士で有能。
横浜の高級マンションで、美しい妻、幼い息子と満ち足りた上流暮らし。
全てが完璧のように思えるが、彼にも“陰”が時折覆う。
ズバリ、城戸は在日朝鮮人の三世。
義父母との会食でもそれを。別に差別的な意味合いはないだろうが、三世だからもうすっかり日本人…それは裏返せば差別そのものだ。
戸籍仲介人からは直球で“在日”と呼ばれる。侮辱される。三世でどんなに血が薄くとも、在日は在日。それを隠しおおせるものかとでも突き付けるかのように。(柄本明、さすがの怪演!)
調査の過程であるスナックでマスターの北朝鮮による日本人拉致陰謀論。
TVのニュースで報じられるヘイトスピーチ。
それらが少しずつ少しずつ、城戸の心を蝕んでいく。思えばこの件に携わってから、自身のアイデンティティーに直面する。
戸籍を偽って別人になるは、在日である事に触れさせず日本人で居続ける事に何か通じるとでも言うのか…?
“谷口大祐”の兄。ちょいちょい相手を侮蔑する事を言う。“本物の谷口大祐”が嫌になって縁を切りたかったのも分かるような…。
里枝と谷口兄を呼んで調査報告の場。“X”が犯罪者の息子と知るや否や、谷口兄は「犯罪者の息子は犯罪者の息子」と侮蔑。それに対し城戸は冷静にしつつも調査ファイルを机に叩き付ける。
城戸にはこう聞こえたのかもしれない。“在日の息子は在日の息子”。
生涯、在日として差別偏見に晒されなければならないのか。それも直球ではなく、うっすら陰ながら。時にそれは面と向かって差別されるより突き刺さる。
殊に日本人は差別や偏見に対して愚かで鈍感だ。性差別、人種差別、ジェンダー差別…それらへの見方があまりにも薄く、問題になる事もしばしば。
城戸が差別偏見に対して向き合い、己や周囲との関係が変わっていく…のならまだいいのだが、城戸は違う。
表面に出さない。が、怒りや憎しみを穏やかな顔の下に煮えたぎらせている。周囲だけじゃなく、それは在日である自分に対しても。
本作では戸籍仲介人や谷口兄など差別的な人物が登場するが、城戸が時折見せる“闇”はそのどれよりも深刻だ。いや、誰よりもヒヤリとさせるほど。
抑えながらも複雑な内面を含んだ役所を、妻夫木聡も見事に演じている。
ラスト、調査も終わり、城戸もまた家族との穏やかな生活に戻ったかに思えた。
ある時城戸は知ってしまう。たまたま操作した妻のLINEから妻が浮気している事を…。
妻を問い詰める事無く、何も見てないと平静を装う。また無理矢理自分を抑え込んで、偽りの顔を浮かべて。
ラストシーンが印象的。あるバーで、一人の男と話しているのは、城戸だ。
城戸は自分の事を話す。しかしそれは本来の自分の人生ではなく、“谷口大祐”としての“X”の人生を。それを自分の人生として。
差別偏見に晒され、妻にも裏切られ、城戸は自分と同じようでありながら最後は幸せな人生を歩んだ“X”の人生を欲したのだろうか…?
いや、別人になりたかったのは自分だったのだ。
開幕とこのラストシーンに登場する一枚の絵画。ルネ・マグリットの有名な絵画だという。
この絵画、何とも奇妙だ。一人の男が鏡で自分を見ているのだが、その鏡に写っているのは自分の後ろ姿。普通に考えれば変だ。
この絵画は『複製禁止』と言い、別人となり別の人生を複写した本作を表しているという。
それに自分を重ねる城戸。
別の人生、別の自分。
名を訊ねられ、答える寸前で映画は幕を閉じる。
城戸は“誰”と答えたのか…?
同時にそれは、我々に問い掛ける。
あなたは偽りなく、“自分”を名乗れますか…?
窪田正孝に胸を鷲掴みにされました
里枝の手を握り「りょうくん、りょうくん」とやさしく声に出す大祐。窓ガラスに映った自分の顔に反応し取り乱す彼をやさしく抱きしめ「大丈夫、大丈夫」となだめる里枝。
これからの二人の温かい人生を物語る大事なやりとりだった。
幸せとは、人生にこういう相手がそばに居てくれること。賑やかな朝食シーンが見事に語っていた。
親に似た自分の肉体とルーツに苦悩を抱えて生きてきた彼にとって、里枝と子どもたちと過ごした幸せな時間だけが、誰の複写でもない、彼自身の人生だった。
マグリットの「不許複製」。戸籍は複写可能だけど、愛は複写不可能だ。外面の幻ではなく内面の愛をもらったからこそ悠人は寂しい。
一方。立派な職業、上質な暮らし、美しい妻子を得た城戸の未来は順風満帆のはずだ。しかし、外面を整えることに懸命に生きてきた彼も、不安定な苦悩を抱えて生きている。差別主義の下衆親に抗議しない妻も、外面が大事な彼と似た者同志かもしれない。本音で繋がっていないような夫婦。
果たして今の自分の人生は本当に望んだ人生?
そこでラストを想像してみる。バーで通りすがりの人物に、城戸は、田口の人生を自分の人生として語る。
城戸は長期出張とかなんとか言って失踪するんじゃなかろうか。
自分の肩書きや過去に関係なく、里枝と大祐のように、ありのままの自分が惚れ合える相手と、明るい未来を歩みたいんじゃないかな。
和製レクター博士、最高だった。
「ある男」とは誰か
冒頭、そしてエンディングに映される、シュールレアリスムの画家:ルネ・マグリットの絵「王様の美術館」が本作を見事に象徴しています。
人は日常の中で知らず知らずのうちに、一定の固定観念に縛られて物事を見聞きしてしまっていて、ほんの少し視点をずらすと、実は全く異なる世界が広がっている、その危ういほどの微妙なバランスの上を綱渡りのように歩んでいるのが人生である、ということを感じさせる作品です。
本作は、芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラー小説の映画化ですが、原作にはマグリットの絵は引用されておらず、このカットを入れる、而もファーストシーンとラストシーンに挿入することで、本作に世の中の不条理感と不可思議で無気味な空気感を漂わせることに成功しています。特にラストは奇怪さがより増幅され、背筋が凍る思いで慄然とさせられ、観終えた後、あまり愉快な思いはしませんでした。
前半は、安藤サクラ扮する武本里枝の視点でホームドラマ風に緩く進み、窪田正孝扮する谷口の事故死から、物語は一気にサスペンス調に切り替わります。ただサスペンスドラマのような体裁を取りながら、冒頭に述べましたように、本作は謎を解くことが主たるテーマではありません。それは窪田正孝の目に終始生気がなく、まるで生きている人でない、一種の亡霊のような感覚がするのが、後々への伏線になっていることにつながります。
そして、物語の転機では常に雨が降っているのも象徴的です。またアクションも美しい自然描写も一切ない、人と人との会話により進行する本作のようなストーリー展開では、つい人物の顔の極端な寄せアップを交互に映し、やたらと無意味に緊張感を強調するようなカット割りにしがちなのが、本作では寄せアップは殆どなく、やや引いた落ち着いたカットでつながれます。観客は寛いで観賞できながら、それゆえにいつの間にかスパイラルに社会の不条理性・不可解性の泥濘に取り込まれていきます。
ただむやみに手持ちカメラを多用しますが、これはあまり意味がありません。画面を揺らして不安感と緊張感を高めようとしているのでしょうが、本作に限っては不要です。私は手持ちカメラのカットのたびに平常心に戻り、却って興醒めしていました。
独特の怪しい空気感が漂う、不思議な趣の本作ですが、率直に言って社会問題を余りにも多く揃え広げて見せ過ぎており、その結果焦点がぼけてしまっています。人種差別・夫婦間の不信・親による差別/虐待・仮面夫婦・戸籍交換・・・、深刻で重篤な問題ばかりで、小説なら読みこなせても、2時間の映像にまとめねばならない映画では明らかに盛り込み過ぎており、脚色に大いに難ありと思います。
さて、タイトルにある「ある男」とは一体誰のことか、脚本通りに捉えれば、その正体を追い求めた、自称・谷口大祐のことなのでしょうが、実は主人公である、妻夫木聡扮する城戸章良のことのようにも、或いは柄本明扮する謎の囚人・小見浦憲男にも思えます。
そう、きっと世の人々は遍く仮面を被った日常と他人には見せない裏の顔を持った、“ある男”なのではないでしょうか。
お箸であんな風に食事を勧める人がいるかな?悩む人にあんな風に怒る人...
お箸であんな風に食事を勧める人がいるかな?悩む人にあんな風に怒る人いるかな?突然道に寝転がって悲しむ人いるかな?刑務所での接見で、あんな対応あるかね?
演出が自己満足的で、安っぽく、折角のテーマが届かない。
妻夫木やるなあ 真木よう子とちくるてんなあ
原作未読
面白い!推理小説的にも論理がしっかりしている。
妻夫木聡、内面に押さえつける演技も絶好調。
重くなりがちな話を小藪が関西弁で和ませる。
さらにこの作品のテーマを背乗り、在日、拉致と絡め
これをニホンガーに結び付ける作法だと白けてしまうが
監督曰くデリケートな部分を敢えてオープンにして
多様性を表現したと。
この監督の心意気に賛同!
80点
3
Tジョイ京都 20221118
パンフ購入
なんかありそうだけど
原作は読んでいないので映画としての印象になるが、石川慶とプロモーション用の装丁から愚行録や吉田修一や李相日のようなものを予測&期待して見た。が、登場人物が入り乱れ、追えなくなっていく。リアルなタッチだが話や人物はメルヘン。罪悪感と在日のパラメータを同線上にしようとするが乗らなかった。
いまの日本映画は悪人が起点になっている。韓国ノワールの台頭と悪人によって多くの日本の映画監督が李相日ぽいムードを真似しはじめた。
多数の日本映画のリアリティ表現に李相日の存在が見えてしまうことに加え、瀬々や三島や荻上やsabuなど“人間の深淵を見つめています”ヴァイブを発する李相日ぽい作風に軌道修正した俗物も多かった。
が、石川慶は別の経路から来た人で来歴にポーランドのウッチ映画大学で学んだ──とあり、デビュー長編からして秀作の愚行録、日本映画臭のない映画監督といえると思う。
因みに日本映画臭とは画からにじみでてくるクリエイターの自我のこと。俺様気配、昭和ポルノ、アート系な驕り、わかるひとにはわかるムード・・・。
映画そのものよりも前面に承認欲が見えてしまうことを日本映画臭と言う。(「言う」つってもひとりで言っているだけだが。)
これは日本映画臭がなくお涙でもなかったから安心して見ていられたが、焦点が定まらず雑然とした印象が拭えなかった。
また、ある男(窪田正孝)が積極的に母性本能をくすぐりにきているのが釈然としなかった。
おとなしい林業従事者。絵を描くが、絵はびみょう。「鏡に殺人鬼の親父を見いだして動揺するから」鏡を見るとうろたえる。
男目線で見れば、ある男が戦略的愚直をつかって女を釣ろうとしているのは明白だった。実際口べたな雰囲気で文具店に通い詰め寂しげな寡婦をゲットする。筋書き上仕方ないものだったにせよ、いかにも母性本能をくすぐりそうな窪田正孝が母性本能をくすぐりそうな役をやっているのがイヤだった。
つまり、ある男は犯罪者の親を背負った不幸キャラを演じている男であって、トラウマに侵犯された男ではなかった。ように見えた。
逆に清涼剤になっていたのが小薮千豊。少ない登場シーンだったが出てしゃべるだけでそこをなんばグランド花月に変えた。陽性、のっぽ、野太い声、ムダにするどい眼光。人情味にあふれ、またハッキリ5かマネーの天使でも見るか、という気分にさせた。
韓国へ行き「日本人であることを恥ずかしく思う」という“マーケティング”をしたことがニュースになっていた女優も出ていた。
この映画の在日設定も、肉親が犯罪者であることの罪悪感と、在日に対する日本人の罪悪感を交叉させるつもりがあったのかもしれない。
いずれにせよ在日が絡む話は日本では高評価へつながる。
はたして映画は多数の賞をとった。
世には正装して出来レースを発表する形骸プライズがある。日本アカデミー賞もそれ。カンヌやサンダンスのように、あるていど民意や審査基準が推察できないプライズは、庶民にとって意味がない。がんらい日本は旧弊で権威主義な映画製作システム自体に問題があり、コンペティションが成り立つような成熟した業界ではない。
石川慶は日本映画臭のない監督だが、この映画はプライズをとるほどのものではなかったと思う。だが第46回日本アカデミー賞にて作品、監督、脚本、主演男優、助演男優、助演女優、録音、編集、の8つの最優秀賞を受賞したとのこと。
編集とか録音とかって選考理由あるんだろうか。米アカデミー賞に寄せて創設したものなんだろうが、プライズを監査する第三者がいるんだろうか。内輪で決める映画プライズってほんと意味ないと思う。
2本立て2本目。死んだ夫は別人だった。ストーリーはなかなか面白かっ...
2本立て2本目。死んだ夫は別人だった。ストーリーはなかなか面白かった。死刑囚の息子が別の名前を求めるのはわかるが、それ以外の人の理由が理解不能。
有名俳優がちょこちょこちょこちょこ登場。無駄に贅沢。仲野太賀、なんだった(笑)
ここでそんな行動する?って場面も多々。最初のカップル成立とか、突然ブチギレボクシング会長とか。ラストもそうだ(笑笑)
名前と自分と
名前を変えた夫と結婚する時、家族同士の顔合わせとか本籍の住民票とかいろいろどしたの???と突っ込みたいところはあったものの、その辺もうまーいことやれる人が本当にいるんだろうな。
自分の知人がほんとうにその人なのかは、私には永遠にわからないのだ。
前半は安藤サクラ、中盤は窪田正孝、後半は妻夫木聡の主人公が変わっていくタイプの流れ。
イケメン弁護士で逆玉に乗った妻夫木だって美人妻に浮気されて最後は谷口を名乗ってバーで自分じゃない人生を演じる。誰だって自分以外になりたい時があるよね。
自分が誰であるかなんて超フワフワだってことは、結婚して苗字を変えるタイミングで痛感した。
私が私であることは私だけが知っていることで、私の嘘も私の秘密も、私しか知らない。
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、 かつての依頼者・谷口里枝(安藤サクラ)から、 亡くなった夫・谷口(窪田正孝)の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。
動画配信で映画「ある男」を見た。
2022年製作/121分/G/日本
配給:松竹
劇場公開日:2022年11月18日
妻夫木聡
安藤サクラ
窪田正孝
清野菜名
眞島秀和
小籔千豊
坂元愛登
山口美也子
きたろう
カトウシンスケ
河合優実
でんでん
仲野太賀
真木よう子
柄本明
平野啓一郎原作
ずっと見たかった作品をやっと見ることができた。
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、
かつての依頼者・谷口里枝(安藤サクラ)から、
亡くなった夫・谷口大祐(窪田正孝)の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。
里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、
やがて出会った谷口と再婚、
新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、
谷口は仕事中の事故で亡くなった。
長年疎遠になっていた谷口の兄(眞島秀和)が、
遺影に写っているのは弟ではないと話したことから、
愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明した。
夫はいったい誰なのか?
城戸は谷口の正体を追う中で様々な人物と出会い、
驚くべき真実に近づいていく。
城戸は服役中の戸籍交換屋の小見浦(柄本明)と面会する。
そこで自分の出自を在日朝鮮人と看破され、いらだちを見せる。
あることから谷口の正体に近づいた城戸。
ラストシーンは驚きの展開となる。
これはよくできたミステリーサスペンス。
満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。
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