「差別」ある男 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
差別
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差別を受けた者にしかわからない痛みがある。差別といっても人種、地域、学歴など様々なものがあるが、殺人犯の息子という烙印を押されたこの映画の「ある男」が受けた差別というのは想像するに余りある。戸籍を変えるという決断をするまでの心の葛藤はいかばかりか。帰化しているものの、在日3世であり、その出自にわだかまりを持っている弁護士の城戸は自分も差別を受ける側にいた人間のために「ある男」の身元調査に没頭してしまう。
あからさまな差別の対象になる事実は隠して生きることもできる。「ある男」はもちろんのこと、城戸も帰化して日本名を名乗るというのは、この世から差別がなくなることはないということがわかっているからである。知らせる必要のないことは知らせなくてもいい、よく男女間ではお互い知らないことが多い方がうまくいくといわれるが、そんなことを知らなければ何の問題もなかったのになぜ知ってしまったのだろうと後悔することはよく起きる。
ラストシーンで城戸が「ある男」の元妻里枝に「ここで過ごした3年数ヶ月が彼にとっての人生のすべて。はじめて幸せだったと思います」と伝えると、里枝は「真実を知る必要はなかった。この町で出会い、愛し合い、いっしょに暮らし、子どもが生まれた。それは事実だから」と答えた。
差別とはその人の本質とは何の関係もない偏見からはじまる。自分を誰かに決めつけられたり、自分自身で決めつけてしまうことで苦しんでいる人にとって、この映画がそのタガを外す役割をすることを願う。
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