「Identity」ある男 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
Identity
かなり重い作品であろう事は上映館での予告で何度もリピートされた印象で刷り込まれ、ブッキーの眩しがる顔が目に焼き付かれてしまった程
なにせ、出演俳優の豪華さは最近の作品では類をみない作品である こんな演技力の高さが段違いの集結がどれだけの上質なサスペンスをスクリーンに描くのだろうと相当のハードルを設定して鑑賞した
結論から言うと、多分今年鑑賞した作品中でも最上質の内容に仕上がっていた あれだけ長い期間の予告を流せば何となく飽きも憶えてしまうが、全くそんな心配は無用であり、それ以上にあの予告にはかなりの情報を上手に控えていたことに感謝すら覚える そして意外にも手練手管の俳優陣もさることながら、子役の中学生の息子役の男子の演技にこそ今作品のキモが潜んでいたことを強く感じてしまった 自室での母親とのやり取りは正に落涙を禁じ得なかったクライマックスである
在日、死刑囚の息子、詐欺師の発言、というこの日本に於ける被差別者の苦悩をこれでもかと抉り倒すには、その差別者である半径1mの近隣者の無神経且つ執拗な心にない言葉が必要であり、今作品にはそのやり取りが効果的に演出されており、その負の推進力がストーリーをまるで飛んでいく風船のように縦横無尽に動いていくのである その被差別の発覚は唐突であり、観客に驚きと、やっと今作品のテーマを突きつけられて戸惑う そう、本来ならば蓋をしたい問題提起なのだから… そこを予告では綺麗に削ぎ落とし(勿論、原作小説を既読者は頭の中にあるのだが)、今ストーリーを初めて知った人は面くらい、その騙し討ちの様な感覚に戸惑うことだろう
但し、自分は思い当たるフシがある、というか当事者だ(被差別者という意味) あからさまな差別を受けなくてもこの国では真綿で首を絞められる事は日常茶飯事である そんな中で主人公2人の背負ってきた背景の凄まじさは身に沁みる疑似体験としての鑑賞であった。そんな作品なのでパンチラインも心に重くのし掛る 「誰の人生と一緒に生きてきたのか…」「自分は一体何者…」「やっぱ親父の血を継いでるんだな」等々、その台詞に解釈等に不必要なストレートな刃が心を刻んでいく まるで当て書きのような配役の2人が陰と陽の様にキャラ付けされているのも感情移入に一役買っている そしてこれが正にラストのミステリーに重要なファクターなのも仕掛けとして段違いである
今ミステリーを紐解く鍵は"ロンダリング" 戸籍をどうやって交換するのかは今作品では説明していないのは犯罪助長に繋がる理由なのは理解出来るのだが、リアリティを味付けするのにはもう少しパンチが欲しかったのは無い物ねだりか(苦笑 それにしてもその交換を何度も繰り返し"上書き"することで元の名前をウォッシュしてしまう方法は、マネーロンダリングと同様かと気付けば腑に落ちるがやはり、金と戸籍ではイメージが湧かない。そのイマジネーションの朧気さを登場人物の多さと相俟って展開を深霧の中に沈めていくのである そして一応の本物語の終結でのカタルシスで安堵を演出したかと思いきや、実は弁護士の妻が浮気していたという事実に、その弁護士も又自分の出自をロンダリングしたと思わせるバーでの場面でエンドロール。一筋縄では行かない今作品の複雑な構造を堪能できた作品である。社会問題、作品自体の多重な構築、そして自分に当てはまるテーマ内容、どれをとっても没入感、そして憤りと悲しさが綯い交ぜに心に注ぎ込まれた素晴らしい作品であった
ご丁寧にご返信いただきましてありがとうございました😊
こちらこそ恐縮いたします。
🌴一筋縄では行かない今作品の複雑な構造を堪能できた作品🌴
まさにその通りの作品でした。
観る度に謎が増えて色々想像し
た作品でした。
身寄りのない、或いは完全に身内や知人と縁を切ったホームレスの方などから、戸籍を買ったりするそうです。戸籍を売ったホームレスはこの時点で名無しの権兵衛になり(本人確認が必要とされる人生を諦めた)、買った人の人生を歩むわけではない。つまり交換ではない。
戸籍を買った人同士で、オレそっちの人生の方が都合がいい、とニーズが合えば交換する。その仲介をするのが柄本明さんのようなブローカー。
ということを聞いたことがあります。