「よく見えない。釈然としない。」ある男 TF.movさんの映画レビュー(感想・評価)
よく見えない。釈然としない。
最後、城戸がバーで自身の人生であるかのように偽って話した内容は、原誠の第二の人生、「谷口大佑」としての人生だった。谷口の人生を継ぎ、谷口として生きた人生を尊重するような言葉に思えた。偽りの人生だが、幸福に満ちた彼の約4年間を肯定し、讃えているかのようだった。少々難解な本作の着地点としては、かなり鮮やかに思えた。一方で、いきなり城戸が原の人生を語る描写は、とても暗示的かつ婉曲的で、観客を混乱させるものだ。本作において、あらゆる描写は直接物事を言い表さない。常に暗示的で、時にはメタファーとして、物語の行方をくらませる。
故に本作は、どうも主題の掴めない物語だったと思う。自身のバックグラウンドに悩まされる者たちが、名前を変え、別の人の人生を歩む。そんな姿に、城戸は「在日」というレッテルを貼られる自身の境遇を重ねる。だが、そんな彼の心象描写も少なく、彼がどうしてそれほどまで悩み、何に思い至ったのか、一貫して晒されることはなかった。思えば、城戸だけでなく他の人物も、感情が露わになることはあっても、どの感情もその出どころはいつも分からなかった。だからなのだろう。誰かに同情することも、誰かに惹かれることもなかったように思う。
結局は「名前に囚われるな」とか、「名前なんて関係ない」みたいな主題なのだろうと思うが、やはりどこか空虚だ。もしかしたら、身構えすぎていたのかもしれないと思う。複雑に見えた構成だが、実はもっと単純で、難解なミステリーではない。目を向けるべきは、谷口大佑の正体ではなく、それにつながる語りであり、作中に散りばめられた社会的な問いかけだ。「死刑囚は変われる」「死刑囚の息子は死刑囚の息子なのだ」「また苗字が変わるの?」他にも色々あった気がするが覚えていない。物語の結尾に結びつくような結びつかないような、そんな多くの語りが本作ではたくさん見られた。それに意味を見出そうとするから、判然としなく、靄がかかってしまう。ただそれとして受け入れれば、実に単純なストーリーに見える。私は、そう思うことにした。
死刑囚の息子は運動神経が良かったのでボクサーとしては有望であった 弁護士はその能力、ステイタスを得られる才能を持っていた そして2人ともその能力を開花させる為に不断の努力を怠らなかったろう事は想像に難くない
そんな2人がそれでも社会からの疎外感を感じるのは背負ってきた出自 生まれた時に貼り付けられたプライスタグのようなものである 2人ともそのタグを隠そうとして藻掻き苦しみながら、正面から対峙してきた 私は壁を乗り越えず回避しまくった口だが、あの2人はアタックしたのだ しかしそのアタックは結局徒労に終わる 仲野太賀が演じた役も同じかも知れない 真面目な人程、現実に打ち拉がれる 帰化しても特長は変わらないのは元詐欺師の指摘で明らかだ これ以上何を変えたら受け入れてくれるのか?という自問は、想像可能でしょうか?
大変失礼しました