「漫画版は好きでした」カラダ探し SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
漫画版は好きでした
漫画版がとても好きだったので観た。原作小説は読んでいない。
漫画版は、「この呪い」の正体は何なのか、とか、「呪い」を解くためには何をしなければならないのか、の謎解き要素がとても面白かったのだが、映画には残念ながらその面白さはなかった。
「カラダ探し」という物語は、ホラーやループものの体裁をしてはいるが、その本質は「謎解き」と「協力系デスゲーム」といえる。
「協力系デスゲーム」の面白さのコアは、以下の3つだと思う。
①ルールを理解する過程 … 理不尽な状況に突然ほうりこまれるが、調査や試行錯誤により、現在の状況を理解する
②協力体制を作る過程 … はじめは反目していた登場人物たちが、エピソードを重ねながら次第に協力できるようになっていく
③ゲームの攻略法を開発していく過程 … ルールの盲点をついたりして、アイデア勝負で、当初は攻略不可能に思えることを達成していく
この映画には残念ながら、上記の3つはほぼ無いか、少し触れる程度。したがって、正直面白くはなかった。
なぜ監督がこの要素を省いたのかは分からない。原作が複雑すぎるので、長いストーリーを1本の映画にまとめる過程で、ディティールを徹底的に省くしかなかったのかもしれない。
しかし、例えば②の部分。クラスでハブにされていた女子や、いじめを受けていた男子が急に仲良くなるのはあまりに不自然。不登校だった男子が協力できるようになっていくところも、漫画版はじっくり長い時間をかけていたので説得力があったが、映画では特に強い理由があるわけではない。
メンバー6人全員の掘り下げをする尺がないのであれば、メンバーを4人くらいにしぼれば良かったんではないかと思う。
それでもこの映画がそれなりに「観れる」ものになっているのは、原作のアイデアの構造が面白いからだろう。あとは、「青春もの」ということを強く打ち出しているせいもあるかもしれない。
この映画は面白くはなかったが、映像や構図には「はっ」とさせる美しさがあり、もっとゆっくり話をすすめられる物語ならもっと良いものになったんではないかと思う。原作にも青春要素、恋愛要素があるが、それらは数々の困難とセットになっているから感動的なのであって、映画のように一緒に困難を超えてきた経緯が十分ではないと、感動も半減するというものだ。
ところで、「カラダ探し」はいかにも「ホラーゲーム」をそのまま物語にしたような設定だと思う。死んでも、翌朝にはリセットされること、パーツを全部集めたらクリアになること、厳密なルールが存在すること、謎解きがメインであること、など。
考えてみれば、「転生もの」に出てくるファンタジー世界も、指輪物語のようなハイ・ファンタジーというよりは、ゲームの世界に入ったような設定のものが多いし、「ループもの」もゲーム攻略的な要素が強い物語のものが多い。
こうした近年流行りのジャンルは、すべてゲームに関連があるか、もしくはゲームと親和性が高いもののように思う。これらが意味するのは、単にコンピューターゲームが広く普及したから、というだけの理由なのだろうか?
もしかしたら、「生」の実感を得られる場が「ゲーム」の中にしか無い、もしくは、「ゲーム」の中の経験の方が、現実における経験よりもより現実的だ(自分の人生だ)、という人が増えているからなのではないだろうか?
まあ、コンピューターゲームが無い時代の現実逃避は小説だったり映画だったりしたわけなので、それと大差はないといえるかもしれない。
ただ、「果てしない物語」のバスチアンのように、逃避した物語世界から現実世界にもどってくることができれば、それはそれで良いと思う。現実世界にもどってこないタイプの物語は、もう現実を見限っているのかもしれない…。