「洗練された脚本、俳優らの自然体を引き出す演出により、難病恋愛ドラマの水準を引き上げた」余命10年 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
洗練された脚本、俳優らの自然体を引き出す演出により、難病恋愛ドラマの水準を引き上げた
とりわけ日本で大人気のサブジャンルである難病恋愛物のありきたりな企画と思いきや、原作者の小坂流加は大学卒業後に難病を患いながら執筆活動を行い、2007年に同名小説で作家デビューしたのち、2017年に病状が悪化し死去したという。
共同脚本に岡田惠和、監督に藤井道人、主演は茉莉役の小松菜奈と和人役の坂口健太郎、さらには友人役で山田裕貴と奈緒、茉莉の家族役に黒木華、原日出子、松重豊など、スタッフ・キャストともに強力な布陣。本作の差別化ポイントは、効果的な治療法がなく患者のほとんどが10年も生き延びられない病ではあるが、主人公が20代の約10年間で死を意識しながらもほぼ日常生活を送れているという点だろう。「限られた人生の時間を生きること」というテーマが、洗練された脚本で積み上げられ、役を生きる俳優たちの自然な演技と、それを引き出す巧みな演出により、安易なお涙頂戴に寄らず丁寧に情感を伝える好作に仕上がった。
原作小説の版元である文芸社のオフィスが、劇中に登場する。余談ながら、文芸社が新宿に移転する前の飯田橋のオフィスには仕事で何度か訪ねたことがあり、打ち合わせの場面では当時の編集者たちを懐かしく思い出した。
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