「一生に一度の大恋愛に振り切って欲しかった。」余命10年 Mさんの映画レビュー(感想・評価)
一生に一度の大恋愛に振り切って欲しかった。
◼️この映画のジャンルについて
この映画は、どうくくればいいのか、余命もの 難病恋愛もの。
さまざまな見方がある。
難病恋愛ものは、セカチューに代表されるように愛する人が難病でした。と言う男性目線の物語が定席。君の膵臓をたべたい、君は月夜に光り輝く 桜のような僕の恋人 などはその系譜でいずれの物語も男性は恋愛経験ゼロ、他人に興味なし、地味だけれど、自分の内面には相手を思いやる芯があり、そんな彼が一目惚れや、その他の動機で一生に一度の初恋をして、一途に愛を全うする。
だいたいは、年齢が高校などに設定されておりプラトニックな物語が定席だ。
この「余命10年」も、男子の地味さ、草食さ、ダメさ、と言う点では、同じ系譜。主人公の和人も、ヒロインに恋をする。しかし、
まず、この動機がイマイチよく掴めず、鑑賞していてもギアが入らない。
このギアというのは、恋愛映画を鑑賞する際にはめちゃくちゃ大事で、ようは「なぜ好きになったか?」という恋愛の動機の発端部分に関わり、これに説得力がないと恋愛が発展していくための鑑賞ギアが観客側に入らないのだ。
和人は、昔から茉莉が気になっていたのは何となく分かるし、自殺後の帰り道、「もう死のうとしたりしないで」と、小松菜奈に言われ、心掴まれたのだろうことは推測できる。
しかし、冒頭の恋愛パートの掴みとしては、和人もだし、脚本も草食系すぎる。描写が弱いのである。
夜桜を見ながらの帰り道。風が吹いて、ハイスピードの映像の中で風に煽られた2人が見つめ合う。これで恋に落ちた、と言う表現のつもりなら余りにも作者たちは草食系すぎないか。
もし仮に彼女の言葉に和人は心を掴まれるとするなら、言われた後の彼のリアクションの芝居、それを捉えるショットで強く表現するべきではないか。(風が吹く表現も、ショットが足りなすぎて成立していない)
遠回りしたが、、
男性目線の「ヒロイン難病恋愛もの」とするなら和人の視点から丁寧に描かれて、やがて彼女が難病だと発覚する定席の運びになるのだが…。
しかし、「余命10年」はクレジットの順番や、タイトルから分かる通り、余命もの、闘病もの、の側面が強い。こちらも、先行する作品群を挙げるとキリがないが、
つまりこの作品は、難病を患った茉莉が主人公であり、彼女が余命をいかに生きるか、
そして闘病に関わる家族や、友人の苦労や絆を描く作品となる。はずである。
しかし、
やはり恋愛という要素は必須であるという要請から、坂口健太郎をその相手役に迎えて、「難病恋愛もの」の側面も織り交ぜつつ、主人公の家族の苦労も描きつつ、ようは余命10年を生きるのだが、メインは「余命闘病もの」であり、「難病ヒロイン恋愛もの」とのハイブリッドでもある。(「桜のような僕の恋人」とジャンル的にはかなり近い)
◼️恋愛映画としての問題点
この作品では、和人との恋愛要素に比重が置かれるわけだが、とにかく茉莉が、恋愛に対しても、和人に対しても消極的で,もちろん愛した相手に対して、秘密を抱えているからさまざまな配慮や、葛藤があるのだろうが、
「それなら恋愛するなよ。」と言いたくなるほど、一歩進んでは30歩ほど下がるほど消極的な姿勢をみせる。
よくあれで、和人はついてきたな、ドMだな。とフォローしたくなるほどだが、
茉莉が主人公なら、
「彼女が余命10年の人生を生きる上で、予定外の恋に落ちた」という描写がなくてはならない。
だから、これは、和人が恋をする物語というより、茉莉が和人に恋をする物語でないといけない。
(どうやら、原作では、和人は茉莉の初恋の人らしいが。)
それは、和人と同窓会で出会った際に、彼にはどこか波長が合う何かがあるな、と茉莉に感じさせる必要があり、それなしには自身の病ゆえに恋愛に興味がない茉莉が和人に関心を振らないわけだから、
例えば、
余命10年しかないということで厭世的だったり、諦念があり、健全な同級生とは疎外感があったりしてる茉莉。
和人は、逆に生きていることの辛さ、故の厭世観や、健全な同期生たちとの疎外感があり、
2人の動機は真逆だが、2人が世界に抱く感情は共通しており、だからこそ茉莉はどこか、和人に近いものを抱き、関心をもつ。
茉莉は彼をどこか放っておけない。
いずれは彼に惹きつけられる。という
そういう演出、視線、ショットが足りなすぎる。
例えば
タイムカプセルを見たとき、彼女は10年前の自分からのメッセージを見て、10年前の自分への申し訳なさと、夢と希望への落差から、涙が溢れる…
ふと、隣を見やると、彼も同じように涙を流していて、惹きつけられる。
というような演出は必要ではなかったか?
◼️恋愛ドラマとしての展開スピードの遅さ
やはり、闘病だろうが、余命幾許だろうが、メンヘラだろうが、恋愛はする。「恋愛もの」としての側面は必定である。
しかし、この作品の恋愛面は、
恋愛感情のドラマを積み重ねる上で、展開がたるく、みていてすっきりしない。
冒頭、お互いを意識してから、
それぞれの友人たちが先に恋人になっても、
手もつないでもらえない和人、普通の精神じゃない。(普通ならもっと早くに脈なしリタイヤするよな。。)
そのようなモヤモヤじらし展開が2回ほどつづき、ようやく銀杏並木の下で、しどろもどろに予告白らしき形になり、拒否されるが、
マツリが倒れた事により、ようやく病状が和人に伝わる。
よかったこれでオープンな関係になるじゃん。と思いきや、塞ぎ込むマツリ、、
もうその時点で、マツリの本心が見えてこない。
どうして、踏み切らせないのか?
ホントに人に惹かれていたのなら、余命や、病人だから恋はしないなんていう体裁には、抗えないんじゃないか?本能のままに、好きになり、愛し合うのが、生きるということではないか?その方が魅力的な物語にならないか?
そうじゃないなら、なぜマツリは和人と交友関係を続けるのか?みていてもどかしいのは、和人だけじゃない。そんな調子がずっと続くから見ていて怠かった。
シナリオ的にも、後半、余命闘病ものへとスイッチさせていくには、難病恋愛もの要素をズルズル引きずると怠くなるだけなのに…。
冒頭の出会いのパートについても、触れたが、マツリの和人への恋愛の動機描写が弱すぎるから、マツリが和人をホントに好きなのか、観客も、作り手も、わからなくなるんじゃないか?
さらにそのあと、日暮里で和人が本告白をし、2人は結ばれたが、
2人の関係は非常にプラトニック。
予告を見る限りでは2人は同棲カップルかと思っていたが、
友情関係の延長みたいな点描が続き、どうやら、ふたりは後のスキーに行く件まで性交渉もしていない。
これもまた、先に挙げた作品群は高校生を主体にしていることから成立するピュアさ、制限、制約、が描けたが、大の大人2人の恋愛にしては拗らせすぎ以外の何ものでもなく、RADの曲が流れて尚更、中二病の様相が増す。
これはもはや恋愛映画でもないな、と思った。
どうしてもっとオープンに描かないのか、
青春を、生を謳歌するように、開放的に愛し合う姿を描かないのか?
路上でキスする2人や、ベッドで愛し合う2人を開放的に描いて、病気の枷なんて今は忘れさせて欲しかった。その方がのちのち、もっと切ない展開になるのに…。
その方が幸せの合間に時たま覗かせる、不安、現実、増えていく薬が、ずしりと重くなるはずなのだが…
さらに驚きなのは、スキーにいったロッジでの出来事である。
和人は茉莉にプロポーズする。
願望をいえば、
茉莉はもう病気のことも忘れて、嬉しくてOKして、夫婦になる2人が家族としてマツリの余命10年に向き合っていってほしかった。
しかし、
なんと、和人は病気のことは知ったものの、余命については知らされていなかったのだ。
余命についてとうに知らされてる観客であるワタシはまたもや、肩透かし、
ここまできて、まだその件を引っ張りますか…と。2段、3段と、「余命だから」の枷を引っ張る必要があるのか。こちらの気持ちは、さらに先に向いているのに。
2段3段にするにしても、そこまで描く映画時間が長すぎて、正直ついていけなくなった。
観客の得ている情報と、和人の得ている情報にギャップがある上、
ワタシは和人はそこまで知らないとも思っていなかったため、マジかよ…と和人と別の意味で驚かされた…。
とまあ、和人の成長や、観ていて嬉しい描写、美しい描写はたくさんあり、感動させられたが、「恋愛もの」を描く上でのシナリオの動機の弱さ、尺の長さが、全体の足を引っ張り、すっきりとした気持ちで鑑賞できなかった。
もっと病に左右されず、和人と茉莉には、一生に一度の大恋愛に振り切って欲しかった。
恋愛映画好きのわたしには物足りず、故に涙もでなかった。
はじめまして
>恋愛映画を鑑賞する際にはめちゃくちゃ大事で、ようは「なぜ好きになったか?」という恋愛の動機の発端部分に関わり、これに説得力がないと恋愛が発展していくための鑑賞ギアが観客側に入らないのだ。
同感です!
恋愛もので、「なぜこの人を好きになったんだ?」って作品が最近多いような気がします
まったく感情移入できないです
突然の乱入失礼しました
シナリオの出来がイマイチと漠然と思っていましたが、本レビューを読んで成る程と納得させられました。説得力大の指摘で、とても勉強になりました。有難うございます。
共感並びにフォローを有り難うございます。
確かに恋愛ものは動機が大切ですよね。そこから観客も、色んな予想を立ててストーリーに惹き込まれていく訳です。
もちろんイライラやハラハラも大切なんですけれど、二人の草食系若者が近づくかと思えば互いによそ見して、観客のガッカリする度合いが高かったです。結果、だんだん物語の緊張感からは離れてしまったと改めて思いました。
筋書きに対する読みの細かさがすごいです。
今後ともよろしくお願いします。