「【原作を映画として昇華し、また原作にバトンを渡す映画】」余命10年 山のトンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
【原作を映画として昇華し、また原作にバトンを渡す映画】
映画『余命10年』は、原作を改変しているのに、原作へのリスペクトを忘れていない。それどころか、この映画をあなた(原作者:小坂流加氏)に捧げますという言外のメッセージが伝わってくるほどに丁寧に映像化した作品だと言える。だが、ある意味で原作小説のPR映像。そのため、細かい描写とかにはツッコミを入れないスタンスでいこうと思う。
◉映画の構成について
この映画は昔原作を読んでいて、内容を忘れかけていたタイミングで見直すと、新鮮かつ、小説を読み直したくなる圧巻の構成のなっている。
原作を直近で読んでいた場合、登場人物の設定の相違点や主人公の性格などで気になる点が多々ありそう。そのため、ある小説家の自伝的な物語として見にいった方が素直に映画と向き合えると思った。
◉名言(ネタバレ含みます)
名言のオンパレードというレビューを見るので、個人的に刺さったシーンを紹介。(正確な言葉は失念)
冬のスノボー旅行でプロポーズをする予定だった坂口。しかし、それを知った小松菜奈は急遽家に帰る。その後、しばらく2人で会うことはなくなる。坂口も東京に戻り、リリー・フランキーの焼き鳥屋で焼き鳥を焼いているシーンでの一言。
リリー・フランキー「で、どうなった?」
坂口健太郎「どうって」
リリー・フランキー「茉莉ちゃんのことだよ」
坂口健太郎「そうですね」
リリー・フランキー「ダメなら次だよ、次」
坂口健太郎「次なんかないんですよ」
個人的に、この「次なんかないんですよ」というセリフに心を鷲掴みにされた。
というのも、昨今はマッチングアプリの影響か、インターネットのおかげか、SNSの普及か、色々あるが、人と人が簡単に会えるようになった、なってしまった。
その結果、自分と合わないと思った人には見切りをつけ、次の恋愛に切り替えるという流れが散見される。そんな時代背景もあるなかで、(この映画の原作が書かれた時点ではそこまでSNSは発達していないが)「次なんかないんですよ」というのは現代の次から次へと恋愛を乗り換える人に対するアンチテーゼになっていたと感じる。
一途に思える人、思いたい人がいるって良いなぁ!なんて思ってしまう今日この頃である。
◉小松菜奈の成長
もともと好きな女優さんではあったが、映画『糸』を見て小松菜奈という女優を追いかけるようになった。この言い方だとストーカーみたいだな(笑)それは置いておくとして、『糸』を見た時に感じたのは、彼女はそのビジュアル以上に、表情や演技を通して醸し出す独特の空気があるということ。それが、まるで飲み込めない水の奔流をガブガブ飲んでいるかのようで、静謐な水の上に浮かんでいるように感じられた。これが俗にいう、スクリーン映えしていると表現するのかは分からない。しかし、他の女優さんにはない彼女だけが持つ雰囲気、ニュアンスというものがあったのである。もちろん、他の女優さんには他の女優さんの良さがある。しかし、『余命10年』という映画にあえて小松菜奈をキャスティングするということの意味。彼女がスクリーンの中で何を表現するのかやはり気になってしまったので今作も鑑賞した次第である。
さて、前書きが長くなったが、今作は良くも悪くも小松菜奈が出ていたと思う。原作の茉莉のイメージとはやや異なり、少々力強いというか。かなり自分の芯や意見を持っている人物としてスクリーンに映っているのだ。既に原作者が亡くなっており、想像でしか役作りができなかったというのもあるだろう。今作の主人公の茉莉は、原作者小坂流加氏の小説で描かれる自伝的な茉莉とは異なる。
あくまで、小坂流加氏が書いた茉莉を演じる小松菜奈なのである。
しかし、この小松菜奈の演技を通して映る茉莉。
これが圧巻だった。原作の茉莉とも違う、現実の小松菜奈でもない。映像の中にはたしかに茉莉という人物が存在したかのように思わされたのだ。
しかし、この小松菜奈の演技を通して映る茉莉。
これが圧巻だった。原作の茉莉とも違う、現実の小松菜奈でもない。映像の中にはたしかに茉莉という人物が存在したかのように思わされたのだ。
◉余談
映画『余命10年』の監督の藤井氏は、小坂氏が花好きであるという話を聞いて、小松菜奈演じる高林茉莉が小説を書くデスクの周りには季節の花を飾って、その一つ一つに花言葉の意味を込めたと語る。(「余命10年」パンフレット、編集・発行:松竹株式会社事業推進部)
→デスク周りにもっと注目しておけば良かった。
◉映像化
多くの人に病気について知るきっかけを提供した本作はやはり映像化の意味があったと思う。
もろもろの感情面については原作の方が細かく丁寧に綴ってある。
また、本作は泣かす映画として語られることが多いが、『そしてバトンは渡された』よりも演出は酷くない。むしろ穏やか。
はじめまして、山のトンネルさん
みかずきです
本作と、そしてバトンは渡されたへの共感、ありがとうございます。
私は、原作を読んだ映画は観ません。映画を観てから原作を読みます。
予備知識最小限又は無しで観た方が、映画は面白く観られるからです。
原作を読むと、どうしても原作に影響されて、ピュアーに素直に映画を観ることが難しくなるからです。
あくまで、私のこれまでの映画鑑賞経験から導き出された映画鑑賞方法ですが。
では、また共感作で交流させて下さい。
-以上-
原作と映画、という観点でのいくつかのレビュー、どれも興味深かったです。自分も映画と原作は別物とわかっているつもりでも、やっぱり自分がのめり込んだ原作の場合はいろいろ…本作は原作未読ですが楽しめました。
> 小松菜奈という女優を追いかけるようになった。この言い方だとストーカーみたいだな(笑)
小松さん(菜奈)は、凄いですよね。自分は小松さんが出ていれば、安心して観ています。