劇場公開日 2022年3月4日

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「自分のために書いた小説。」余命10年 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分のために書いた小説。

2022年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

原作者は亡くなっているからこれはドキュメンタリーなのかとまず思った。しかし小説だから自身の願望(妄想)をフィクションにして生きた証を残したのだろう。難病で長く生きられないと知った主人公の心の動きが美しく描かれている。家族や友人達との関係もリアルである。最初の内は、淡々としている茉莉に、寿命が短いことをあまり深刻に受け止めていないのか、半ば人生を諦めてしまったのかと感じていた。しかし、そうではないことが和人との関係が進展していくにつれて明らかになっていく。本当は泣きたいし叫びたいのに無理に抑え込んでいただけ、自分の理不尽な境遇に怒っているが、感情を露にしたら家族を悲しませるだけだと思っている。和人に対しては、自分を愛してくれたことに感謝して、彼の為を思って別れてしまうのは切ない。命の終わりが近づいた時、本当なら将来二人に訪れたであろう幸せな時間を想像する姿は悲しすぎるが、確かな幸せがあったことを思うと幸せな人生ではなかったかとも思う。
主人公の目線で自分のために書いた小説だと思う。茉莉以外の人物は、作られた感が強い。茉莉に対しては、内面を理解するとどんどんキャラクターに入っていけるが、和人は都合のいい相手役にしか見えない。まるで、路傍に捨てられていたのを茉莉に拾われた「ポチ」のようである。不器用だが真面目なのが取り柄である。
映像も音楽も美しい作品でした。

ガバチョ