「うるうびと」余命10年 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
うるうびと
原作者の方が実際に病気を患っている最中書かれた作品というのもあり、自伝に近い作品だと自分は考えています。そのため、「死」を扱う作品の中でもずば抜けて説得力のあるものに仕上がっていました。
・背景の撮り方が抜群にうまい
和人と茉莉が和解し笑い合うシーンで桜吹雪が起きるシーンを筆頭に、日本の四季の場面はどれも美しく、日本という国の色とりどりな景色を堪能できました。この描き込みは新海監督作品の様なアニメ的な美しさがそこにはありました。藤井監督は「DIVOC-12」内の作品でもMV的な美しさを体現していたので、そのシーンが節々に詰め込まれていてとても良かったです。
・役者陣の熱演
小松菜奈さんは病気を患う女性を演じる事が多いですが、それらや過去の作品含めて1番の演技だったと思います。背負っているものは多いけれど、それを感じさせない明るさとそこはかに潜む暗さの演技分けが素晴らしかったです。作中の食事シーン、「糸」でもカツ丼を食べていた時になんか凄いなと思いましたが、今作は短いながらもそのシーンが記憶に強く残っています。暴飲暴食なのですが、病気や人間関係に詰まった鬱憤を晴らす様に、忘れる様に食べる姿はとても生々しく人間らしいなと思い感動しました。病院でのシーンのために体重をしっかりと落とすなどの努力も並々ならぬ力の入れっぷりを感じました。坂口健太郎さんは序盤こそ痩せこけて自分に自信のない様に見えましたが、茉莉と出会ってから前を向き、徐々に自分に自信を見出してきて人を思いやれ、自分の店を持つという2時間の尺で成長をたっぷり感じる事ができました。優しさというものが滲み出しているというか具現化している様な柔らかな表情に惚れ惚れしてしまいました。他の役者の方々も隙のない優しい演技に魅せられ、人間関係のギスギスも少なめだったのも好印象です。
・劇伴で語る物語
RADWIMPSが今作の劇伴を担当している事もあり、耳馴染みがありとても落ち着ける音楽が物語を包み込んでくれています。挿入歌のポジションをピアノに置き換えてダイジェストで物語を進めるシーンもありますが、これがダイジェスト感をあまり出さずにしっとりと物語に引き込んでくれてとても良かったです。主題歌の「うるうびと」の歌詞も野田さんの哲学的な言葉がふんだんに散りばめられていて好きです。
この手の作品は邦画ではかなりある部類であり、差別化は難しいと思っていましたが、役者陣の演技×撮影技術の卓越っぷり×心地良い劇伴と隙のないクオリティの邦画が出来上がっていました。映画のために端折った部分はちょくちょく垣間見えましたが、それでも総合的には感動できる良い作品でした。製作陣、役者陣の皆様お疲れ様でした。
鑑賞日 3/12
鑑賞時間 12:15〜14:30
座席 J-12