「ありきたりな難病恋愛映画かと思いきや…」余命10年 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
ありきたりな難病恋愛映画かと思いきや…
何度か映画館で予告編を観て「小松菜奈さんが出るなら観よう」と思っていた本作。私個人的には人の死で涙を誘う系の映画は苦手なので楽しめるか不安だったんですけど、公開初日に鑑賞した映画ファンからの評価が軒並み高かったので結構期待しての鑑賞です。
結論ですが、非常に楽しめました。
てっきり「ヒロイン死んじゃう悲しい」っていうありがちな映画かと思いきや、タイトルの通り「死」よりも「余命」にフォーカスした作品でしたね。残りの時間を誰とどのように過ごすかということに重点を置いた描写が多く、尚且つ細かな演出や原作からの改変や脚本が上手で、しっかり深くて考えさせられて興味深い映画でした。
鑑賞後に調べて知ったのですが、原作者の小坂流加さんは2017年に本作の主人公である茉莉と同じ病気で亡くなっているんですね。『余命10年』という作品は治療法が確立されていない原因不明の難病になった小坂さんが「限られた命で、こういう風に生きたい」という願いがこもった半自伝的小説だそうです。さらに、本作を映画化するにあたって藤井道人監督は小坂さんのご両親などにインタビューされたそうで、本当にこだわりを持って作られた映画です。だからこそリアリティと強いメッセージ性。しっかりとした作りの映画でした。
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数万人に一人という原因不明の難病になり、「10年生きるのは難しい」と余命宣告を受けた20歳の高林茉莉(小松菜奈)。病院での療養を終えて日常に戻った彼女は「恋愛だけはしない」と心に決めていた。ある日地元の中学校の同窓会の案内が届き、自分の病気のことは隠して参加することにした彼女は、中学の同級生である真部和人(坂口健太郎)と再会する。
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本作の素晴らしいところは、原作からの大幅な改変です。
映画鑑賞後に調べて知ったのですが、本作は根幹となる設定以外の部分に改変が加えられています。原作ファンの中には怒る方が出てもおかしくないレベルの大幅な改変です。ただ、あくまでも原作未読の観客の意見ではありますが、この改変は映画の面白さを引き出しているように感じました。
原作の茉莉は残された時間を楽しむためにコスプレしたり同人誌を発売したりするなどのサブカル活動を行うのに対して、映画では小説やコラムの執筆活動を行います。また坂口健太郎さん演じる和人も、原作においては文武両道で家柄も良い完璧な男性像として描かれています。更に時代設定もそ現代に変更されています。
これらの改変は、よりこの物語に現実味を持たせるのに一役買っているように感じました。映画の主人公の茉莉は「高校時代に小説の新人賞を受賞した」「自身を題材とした小説を書いた」という設定になっています。これは原作者である小坂さんをモチーフにしてますね。
原作小説は、自身と同じ難病に悩む女性を主人公を据えた自伝小説的要素と、「こういう恋愛をしたかった」という妄想恋愛小説的な要素が混ざった作品ですので、多分そのまま映像化しちゃうとありきたりなティーン女子向け難病モノ恋愛映画になってしまったと思います。原作のフィクション部分を現実の小坂さんに寄せて大幅改変したことに関しては、(原作未読の立場からすれば)大成功だったと断言できます。
家族描写も素晴らしかった。
劇中で余命宣告を受けた茉莉とその家族との関係についても深く描かれていたんですが、実は原作はここまで家族の描写は多くないそうです。調べてみると監督の藤井道人さんは原作者の小坂流加さんの遺族へインタビューをしており、映画での家族描写を追加したとのこと。この描写が本当に良かった。家族の描写がしっかり描かれていることで、「先立つ方と残される方、どっちが可哀想なんだろうね」という劇中の台詞がグサリと心に突き刺さるわけです。
映像がとにかく美しかった。
桜咲く春のシーン、空と海のコントラストが美しい夏のシーン、木々が暖色系に色づく温かみのある秋のシーン、一面に白銀が広がる冬のシーン。どのシーンも映像が非常に素晴らしかった。
通常映画は決められた短い期間で撮影することが多いんですが、本作は一年を通して映画を撮影していったとのこと。映画の撮影期間が長くなるほど演者へのギャラや撮影に伴うスタッフへのギャラが嵩んでしまって製作費が増えてしまうので撮影期間が長いのはあまり好まれないんですけど、本作は四季の美しい風景を実際の映像に収められることや、小松菜奈さんが病気によって痩せてゆく茉莉の様子を実際に一年の時間を掛けて肉体作りをして見せることで、作品の質が間違いなく向上したと思います。
今、映画館でどの映画を観るか迷っているなら、間違いなく本作を観るべきだと思います。それくらい素晴らしかったです。オススメです!